11月下旬、東京・上野の貴金属店に押し入った3人組を、店員がさすまたで撃退した事件。その様子をとらえた動画が話題になり、さすまたの製造会社には問い合わせが殺到しているという。だが、製造会社の社長は思わぬ「特需」にも意外や冷静で、逆にある懸念を口にする。
事件があったのは11月26日のこと。上野の貴金属店にヘルメット姿で押し入った3人組に対し、大柄な店員がさすまたを振りかざして応戦。倒した犯人のバイクをさすまたでたたいて威嚇し、逃げる犯人を追いかけていく。
この様子をとらえた動画がテレビやネットニュースなどで報じられると、店員の圧倒的な体格と勇猛果敢な撃退ぶりに、SNSでは称賛するコメントが飛び交った。
2日後の28日、18歳の男2人が警察に出頭し逮捕され、12月7日にも新たに20歳の男が逮捕された。
動画をきっかけに「特需」に沸くのが、さすまたなどの防犯製品を製造する会社だ。
保育園や病院からの問い合わせ
警察と協力して2011年から、さすまたや犯人を拘束する新型の防犯製品を開発してきた栃木県の「佐野機工」には、事件前の10倍超にのぼる問い合わせが寄せられているという。
同社が開発した、さすまたの先端に取り付けられたバンドが犯人にくるくると巻きついて体を拘束する「ケルベロス」は、優れた防犯製品として過去に警察庁長官賞を受賞した。さらには社長自らが体を張って、女性社員たちに拘束される動画をSNSで公開したところ、「社員のうさばらし」などと思わぬ話題を呼んだ。
「上野の事件の影響だと思いますが、貴金属店などの小売業者からも問い合わせをいただいています。傾向としては保育園や病院など、弱い立場の人がいて、職員がいざというときにその方々を守らなければならない職場からの問い合わせが目立ちます」
佐野仗侊(たけみつ)社長は、反響の大きさについてそう語った。
だが、佐野社長は意外にも冷静で、逆に懸念を口にする。
「撃退した店員の方はとても勇気があったと思います。ただ、あの映像のさすまたの使い方が独り歩きすることは極めて危険だと感じています。なぜなら、さすまたは攻撃的に使うと凶器にもなり得ます。犯人を倒したら頭を強打して……、などと過剰防衛で自らが罪に問われるリスクも否定できません。そんなつもりじゃなかった、ではすまされないのです。また、犯人が凶器を持っている場合は、相手が興奮してより攻撃的になり危険にさらされる可能性もあります」