上野の事件は、あくまで攻撃的に使って成功した一例に過ぎず、常識的な使い方だと思い込んではいけないということだ。

 佐野社長いわく、ケルベロスも攻撃には向いていないという。なぜなら開発する際、警察当局から、犯人にケガを負わせない、という点を最も強く念押しされたからだ。

 警察が来るまでの時間を稼ぐためや、自分たちが逃げる時間を稼ぐための道具、というのが正しい理解である。

「積極的に犯人を攻撃していいという勘違いが広まれば、危険な防犯製品を作る業者が出てきかねません。防犯製品は、製造する側の倫理観が非常に大切なのです」と佐野社長は強調する。

「うちもいつ襲われるかわからない」

 佐野機工では、ケルベロスなどを販売する際、必ず対面やオンラインで使用法をレクチャーし、訓練の機会を作っている。使い方をちゃんと理解し、過剰防衛のリスクを防ぐためにも、売っておしまい、の姿勢は許されない。それが同社の考え方だ。

「犯人は犯行前に下見に来るケースが多い。防犯製品をどこに置けば犯人の目にとまりやすく、犯行をためらう可能性が高まるのか。レクチャーや訓練に加え、購入者の職場などの状況をしっかり見て、ていねいにコーディネートすることが重要だと考えています」(佐野社長)

「ルフィ」を名乗った男らのグループによる一連の広域強盗事件や、今回の上野の事件を受け、とりあえずの備えではなく、「うちもいつ襲われるかわからない」という切迫感のある問い合わせが増えていると、同社の従業員たちは感じているという。

「一にも二にも、備えが大切です。そのために、防犯製品の役割と、正しい使い方を知って活用していただきたいと思います」(佐野社長)

 のど元を過ぎれば……ではないが、防犯意識は覚めがちだ。だが、何者かも分からない「上」からの指示を受け、あっさりと凶行に走ってしまう人間が増えている現実を、忘れてはならない。

(AERA dot.編集部・國府田英之)

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