NPO法人 ヒューマニティ理事長 小早川明子(こばやかわ・あきこ)/中央大学文学部哲学科卒業。警察庁や内閣府のストーカー行為等の規制や被害者支援に関する委員会の委員を歴任(写真:本人提供)

 自分にないものを持つ相手と接すると、自分はダメな人間に思えてくる経験は誰にもある。だが、SNSでの「監視」が高じると、相手への攻撃に至ることもあるという。

「憧れの対象だった人も、自分には到底できない体験や行動をサクサクこなしている状況をSNSで浴びるうち、やりたかったことなのにできていない、と苦痛を感じるようになります。これが嫉妬です。そして、この苦しみは相手のせい、と思考が感情によって歪められていくのです」(小早川さん)

 ただ、自分と圧倒的に距離がある有名人やセレブに対して嫉妬は生じにくいという。

「あの人は自分と同じ世界の人間なのに自分が持っていないものを持っている、と感じると、あたかもそれが自分から奪われたような感覚になります。そうなると、相手を敵視して無意識の防御本能が作動し、警戒が始まります。相手は雲の上の人だと思考が判断し、感情もそのように反応すれば、嫉妬はなく、防御本能による警戒や攻撃もしません」(同)

 サークル内で複数の男性と関係を持つ後輩女性に直面した冒頭の女性も、本能が無意識に作動した可能性がある、と小早川さんは言う。

「女性の『無意識の脳』が異性を取られる危機を感じとり、生殖本能を起点とする警戒が働いたと考えられます」

 警戒心から始まったSNS上での監視。それが現在まで続いているのはなぜなのか。女性がこの間、結婚、出産を経てきたことが大きく作用している可能性があるという。

「この女性は後輩女性を『監視』していた15年の間に夫と出会い、結婚し、子どもも産んでいます。恋愛、セックス、出産、子育てという一連の生殖行動をしながら『監視』をしたため、生殖行動を想起したり行動したりする際に『監視』という反応が生じる条件付けがなされたと考えられます。結婚前には定着し、その後、強化されていったのでしょう」

克服するためには

 人間の脳には、防御、生殖、摂食という本能行動などを司る第一信号系と、理性的な行動を司る第二信号系という二つの中枢がある。第二信号系でSNSでの「監視」をやめると決めても、繰り返され鍛えられた第一信号系が第二信号系を凌駕し、「監視」を再現する。

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