では、どうすれば克服できるのか。

 小早川さんが勧めるのが、「監視」など問題行動の第一信号系を弱める「条件反射制御法」だ。本能行動の達成時や薬理作用によって生じる脳内の生理的報酬効果のない行動は定着しないことを利用し、疑似的に問題行動を反復する。

 例えば、嗜癖が注射での薬物摂取であれば、注射を打つ真似をする。アルコールであれば、空っぽのカップを繰り返しあおる。ストーカーの場合、スマホの電源を入れずに相手に連絡する動作を重ねる。重篤なストーカーは画面上に文字が見えたり、「シュッ」とメールの送信音が聞こえたりするが、それらもやがて生じなくなる。

 社会的な逸脱行動を抑制できている人は自宅での脳トレで対応可能という。SNSでの監視の場合は、相手のSNSを見た日の朝からその行為を終了するまでの間に目にした風景や物を、時系列に沿って1枚に数個の単語にして書き出した20枚のカードを10~20話分用意する。1話を、1枚5秒間ほどで順次見る。これを毎日20話、1週間ほど繰り返せば緩和されるという。

 この脳トレは頻度を高めると抑制が進むが、低頻度だと監視する神経活動が活発になったままで苦しくなるという。その場合、条件反射制御法を用いる専門家の指導を受けるとよい、と小早川さんはアドバイスする。(編集部・渡辺 豪)

AERA 2023年12月11日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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