冨島佑允さん(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

――本書に出てくる「数式読解力」のことですね。

冨島:はい。“数式読解力”は私の造語で、数式を通じて物事の本質を見抜く力のことです。数式を恐れずに、そのエッセンスだけでも知っておくことが大切ということです。

 欧米の企業の経営層の人たちと会議などで話すと、数学的なことに関して、たとえ苦手意識を持っていても積極的に質問し、きちんと理解した上で経営判断をするのが当たり前の姿勢になっています。日本のビジネスパーソンも、文系・理系というフィルターを外し、数式読解力を身につけることが、グローバルに仕事をしていく上で必須になってきていると感じます。

――本書で取り上げられている事例の中では、個人的にメタバースの話が印象的でした。最近のゲームなどでは、コントローラーを動かすだけで、ぐりんぐりんと上下左右に視点を動かせますが、そのような「回転」を表すのに、高校で習った「虚数」が大切な役割を果たしていることを初めて知って、「へー!」と思いました。

冨島:虚数は2乗すると「-1」になるという、現実世界にはありえない数ですが、その虚数を平面のグラフで表す「複素平面」によって、回転運動が表現できます。19世紀にアイルランドのハミルトンという数学者が考え出した概念ですが、それが今の最新のゲームやメタバースの基礎理論になっているのが面白いですよね。聞いた話ですが、日本の某世界的ゲームメーカーのエンジニアたちも、複素平面のことを会社のプログラムでしっかり学習するそうです。

――他にも例えば、欧米のヘッジファンドが、世界中の原油タンクの「蓋」の影を衛星画像から解析しているというエピソードも、これまでにまったく聞いたことのない話で、「目からうろこ」でした。

冨島:面白い話ですよね。実際にヘッジファンドでは、タンクの蓋の影の角度から貯蔵タンクの中にある原油の量を推定することで、今後の世界の原油の需要を予測し、売り買いを行っています。そんなふうに、衛星データとAIを組み合わせて近未来の需要を予測するビジネスの工夫が、他のマーケティング領域でもどんどん始まっています。

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数学はイメージや直感を生かすことで理解しやすくなる