組織に拘泥しないから、会社に入って勤め上げるという価値観は失われつつある。Z世代にとっての仕事のやりがいは、いかに個の幸福を追求できるかも重視される。人生のやりがいは仕事でつくるという価値観で育った上の世代には理解がなかなか難しいだろう。

 若者たちとの対話の中で、桑原さんははっとさせられた経験があるという。希望していなかった部署に配属された新入社員の話だ。上の世代の価値観から、「一つ目の部署での2、3年くらいすぐ取り戻せる」「今の部署で身につくものもあるから」と慰めがちだが、

「その新入社員は『先輩たちと同じような時間軸で生きていない』『この先どうなるかわからない時代を生きる中で3年間はすごく重要』『同期たちが、望んだ配属先で成長していくのを見るのがつらい』と話したんです。視野の違いに気づかされたエピソードです」

 かつては大学を出て企業に就職すれば終身雇用、年功序列で待遇も上がっていく。一方で、Z世代にとっては「企業に入れば安泰」という考えが信じきれず、自分の力で生きなければならない。成長を大事にするのはここが動機でもある。

納得感を大事にする

 自身の成長を重視するZ世代は、与えられた仕事は自分にとって意味があるのかと問う。かつてであれば、将来的に昇進などわかりやすいリターンがあったが、今の若者にとっては、本当にリターンはあるのか、会社は生活を守ってくれるのか、その仕事のやり方は持続できるのかと、先が見えない。理屈はわかってもリアリティーがない。甘えでも何でもなく、今の生き方を模索する中で、違和感を口にする。上の世代からするとそうした背景を知らず、「自分勝手だな」と思ってしまう。

「もはや仕事の対価は『お金』だけではありません。成長を感じられるか。この仕事をするのが自分である意味は何か。その納得感を大事にしています」

(編集部・秦正理)

AERA 2023年12月11日号より抜粋

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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