この体験で、私はスペースXやテスラなど世界的に有名な企業の敏腕経営者として名高いイーロン・マスク氏の逸話を思い出しました。
彼が宇宙企業のCEOになったとき、現場までやってきてはエンジニアたちに根掘り葉掘り技術的な質問を浴びせかけたそうです。そして最終的には、マスク氏自身がロケット工学の専門家と名乗れるほどの専門知識を身に付けたと言われています。
質疑応答や追加のミーティングをしたからといって、その役員が私の投資戦略に使われている数式をその役員が自力で解けるようになったわけではありません。ただ彼は、私が提案した投資戦略の本質を理解するために数式にチャレンジし、実際に理解したのです。
日本の数学教育では、公式を当てはめて正確に計算する練習をたくさんやらされます。しかし、数式がだれのどんな思いから生まれ、世の中でどう役立っているのかわからないまま計算練習だけさせられるのは、ほとんどの人にとっては苦行です。多くの学生は数学をつまらないと感じてしまうのではないでしょうか。
でも、それではとてももったいない!
数式を作るのも使うのも人間です。そして数式は、私たちが物事の本質を見極めるためのレンズとして役立ってくれる、私たちにとって欠かせないものであり、可能性を秘めた興味深い存在だということを感じるきっかけになってほしいとい。そういう願いをこの本に込めています。
自分が数式を解けるようにならなくてもよいのです。本当に不足しているのは、数式メインの仕事をする人ではなく、その意義を理解し支援してくれる人だという話もあります。
最近、ある大手外資系企業の営業部長と話す機会があったのですが、日本企業では、社内の文系人材と理系人材を結びつける「橋渡し役」がいないことが、データや最新テクノロジーの活用で世界に大きく遅れている一番の理由になっているそうです。
理系人材が技術やアイデアを持っていても、実現させるために協力が必要な他の部署にそれを理解できる人がおらず、コミュニケーションをサポートしてくれる「橋渡し役」もいない。結果として、せっかくのアイデアがビジネスにつながらないことがめずらしくないといいます。