私は四十歳で、特に崇高な思想もないままに自動的に子宮の閉鎖が近づいてきているので、ピンポイントの出産経験だけでも十年以上の仕事と全く惜しみなく交換したいくらい羨ましいです。人と比べても仕方ないと意識の高い人は言いますが、個人的には意識が高い人よりもglobeの歌詞「時には誰かと比べたい~♪ 私の方が幸せだって…!」の方が自分自身の本音に近いと思ってます。具体的な人が思い浮かぶ場合は、どうしてその人を羨ましいと思うのか、どの要素が一番大きいのかを見極めて、その部分だけ集中して追いつこうとしてみてもいいし、細かく考えれば自分の方が勝ってると思ってほくそえんでもいいと思います。

 先人たちのお蔭で自由の増えた女の人生、ぶつぶつ文句を言ったりひがんだりねたんだりしながら、降りかかってくるものにひたすらその場しのぎで対処して進んでいく以外に、今のところ解を持っている人には出会ったことがありません。私はネガティブな感情を否定されるのが嫌なので、嫉妬や悔しさなど一つ一つの感情を愛でながら、この部分に関しては平均よりマシだろう、とぎりぎりのプライドを保って生きるというくらいの指針しか思いつきません。だから前職への未練も妊娠時期の後悔も義母への恨みも、大切にしてください。自分一人でそれを昇華しきれなくとも、今後仕事で急に成功した時のインタビューで美談にして話してもいいし、将来子どもがM-1で優勝した時のネタの掴みに使われるかもしれない。何が起こるかわからないという点だけは、わくわくしませんか。

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鈴木涼美

鈴木涼美

1983年、東京都生まれ。慶應義塾大学在学中にAV女優としてデビューし、キャバクラなどで働きつつ、東京大学大学院修士課程を修了。日本経済新聞社で5年半勤務した後、フリーの文筆家に転身。恋愛コラムやエッセイなど活躍の幅を広げる中、小説第一作の『ギフテッド』、第二作の『グレイスレス』は、芥川賞候補に選出された。著書に、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』『非・絶滅男女図鑑 男はホントに話を聞かないし、女も頑固に地図は読まない』など。近著は、源氏物語を題材にした小説『YUKARI』

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