--阿久悠さん、赤塚不二夫さんと、最近70代の方の訃報をよく耳にします。
山田 ぼくも他人事じゃありません。いつ自分の身になるか分からない。
--去年がんで亡くなった緒形拳さんは71歳でした。緒形さんとは何本か仕事をなさってますね。
山田 「いくつかの夜」(05年)が緒形さんとの最後のドラマでした。本読みのとき、「お忙しいのに受けていただいてありがとうございます」と挨拶したら「いえ」と答えられたんだけど、その口調がちょっと暗かった。どうしたんだろうと一瞬思ったのですが、まさか病気だとは……。だからいったんですよ。「ぼくは老人の話を書きたいんだけど、老人がどんどんいなくなってしまうので、緒形さん早く年取ってくださいよ」って。緒形さんは「ええ」と笑ってらした。
--「風のガーデン」(脚本・倉本聰)を撮り終えてすぐの他界でした。
山田 体調を崩しておられるのは娘(演出家の宮本理江子さん。「風のガーデン」を演出)からなんとなく聞いていたのですが、娘もはっきりは申しませんからね。訃報は思いも寄らなかったし、あのドラマで衰弱してらっしゃるのを見てショックでした。
--丁寧な、素晴らしい演出でしたね、「風のガーデン」は。かけた時間がちゃんと画面に表れていた。
山田 脚本がいいから。
--山田さんの「今朝の秋」(87年)も、がんの息子が親より先に亡くなる逆縁の物語でした。
山田 ええ、勘当して許す許さないという話じゃないですけど。あれが笠智衆さん最後のテレビドラマになりました。
--ぼくは笠さんに一度会ったことがあるのですが、あのまんまの方だった。
山田 そう、あのまんま。小津安二郎さんが造形した笠智衆像みたいなものが虚実混ざり合って人格ができているような……。ぼくが助監督のころ、松竹の御大の俳優さんのひとりでいらしたから、ずっと憧れていたんです。最初にお願いして出ていただいたのが「ながらえば」(82年)という作品。そりゃもう意気込んで書きました。でね、名古屋NHKの控室で偶然二人っきりになったことがあるんですよ。何か面白い話をしなくちゃと汗をかきながら笠さんを見ると、笠さんのほうも何しゃべっていいか分からないで困っておられて、あの調子で「今日は天気がよくて」なんておっしゃる(笑い)。それがほんとにいい味で。