ドラマのモネが出てきてほしい

--ぼくは山田さんの話を聞きながら、これは山田さんの創作作法でもあるんだろうなあと思いました。

山田 うーん、でもテレビはそんな気取ったものじゃないというか。ほとんどの人は行儀の悪い状態で見ているわけだから、そんな文学的なことをいっても見てくれない。

--外しましたか。

山田 でもモネのことはよく考えます。彼が「印象 日の出」を出品したときに、それまでのリアリズムの巨匠たちは「なんだこれ、描きかけの絵じゃないか」と酷評した。でもモネが出てなかったら、その後の絵画はひどく退屈なものになっていたと思う。だからぼくはぼくに似たドラマをいくらうまく書く人が現れても驚かないけど、若い人の、面白いと思えない、よく分からない作品に出会うと、こいつはひょっとしたらモネかもしれないと思うんですよ(笑い)。そう思うと軽々に批判なんてできなくなる。

--宮藤官九郎さんは?

山田 ちょっとモネっぽいかな。(笑い)

--去年は「ラスト・フレンズ」(脚本・浅野妙子)が新鮮でしたね。「ふぞろいの林檎たち」は不揃いながら同じフルーツ、つまり同じ性をパッケージしたドラマだったけれど、このドラマは性同一性障害者だったり、女性恐怖症の男だったりとバラバラのフルーツのパッケージなんです。そういうのを見ると、「ふぞろいの林檎たち」は長いこと日本のドラマを呪縛してきたんだなあとも思う。

山田 ぼくは見てないんですが、そういう書き手が出てくることがいいことなんですよ。自分の基準を当てはめようとは思わない。ぼくもある時代を生きてきてその限界と可能性をもっているし、次の若い人は次の限界と可能性をもっていると思うんです。「あ、モネかもしれない」は、ぼくの底辺にあるキーワードのひとつです。

--山田さんの場合、新しいドラマを書くときはアイデアが降りてくるんですか。

山田 そんな神秘的なもんじゃない。何を書いてもいいという自由に途方に暮れて、七転八倒して、だんだん絞っていく。新人のころと変わらないですよ。

--一度闇に戻す?

山田 そうですね。

--「ありふれた奇跡」も?

山田 ええ、途方に暮れてから書いています。

--12年ぶりの連ドラはどういうスタッフと組まれるのでしょう。

山田 「星ひとつの夜」のときのスタッフで、プロデュースが中村敏夫さん、演出が田島大輔さんです。あのドラマのときにとても丁寧につくっていただいて、それがよくて。そのスタッフで連続をやってくれるというので、この人たちとだったらやれるなと思ったんですよ。

--1月8日の第1回、楽しみにしています。

やまだ・たいち 1934年、東京都生まれ。58年、松竹大船撮影所入社。65年、脚本家として独立。「岸辺のアルバム」(77年)、「早春スケッチブック」(83年)、「ふぞろいの林檎たち」(83年)などテレビドラマの名作を多数手掛ける。88年、小説『異人たちとの夏』で山本周五郎賞受賞。08年、ドラマ「本当と嘘とテキーラ」が民放連賞受賞。09年1月からの連続ドラマ「ありふれた奇跡」を執筆。

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