不本意な作品は一本も書かない

山田 バブルが日本の社会を引っかき回したんですね。局全体として視聴率主義になり、面白ければいいと。ぼくだって面白ければいいと思うけど、その内容が人気マンガのドラマ化だったり、人気タレントの起用だったり。それに中高年を切り捨てた若者路線でしょ。その商業主義は現在に至るまで続いているわけだけど、このままいくと自分の書きたくない、不本意なものまで書くことになると思い、「ふぞろいの林檎たちⅣ」(97年)を最後に連ドラから降りました。

--80年代後半から小説や戯曲も手掛けておられる。

山田 ラッキーなことに、ちょうどそのころ、書いてみないかと誘ってくれる方がいたんですよ。テレビ以外のメディアをやることで精神的にもずいぶん救われました。

--連ドラを降りたあとも単発ドラマは毎年書いておられます。

山田 ええ、視聴率の良いのも悪いのもありますが、不本意に書いたものは一本もない。それもほかのメディアをやっていたからできたんですね。でなかったら10年以上連ドラを書かず、しかもテレビ界から離れずにいるというのは難しかったと思う。

--「遠い国から来た男」(07年)で、中米から46年ぶりに帰ってきた男を演じた仲代達矢さんが「うまいね。鰻重ってこんなにうまいんだね」というシーンでは、本当に鰻のニオイがしてきました。

山田 あのシーンは素晴らしかった。ぼく、仲代さんご本人にも伝えましたよ。

--「星ひとつの夜」(07年)では笹野高史さん演じる男が、同僚で前科持ちの渡辺謙さんに意地悪して、渡辺さんに詰め寄られたときに軽く言い放った「嫉妬よ」の一言。刺さりましたね。

山田 あの男の動機は嫉妬がいいと思った。男同士の嫉妬は陰湿ですから。

--「本当と嘘とテキーラ」(08年)は、失礼ですが、山崎努さんと柄本明さんの配役が微妙にずれていて、いまひとつフーガになり損ねていたような気がする。柄本さんの役は狂言回しと思っていいんですか。

山田 いや、主人公を相対化する役どころです。主人公に社会的な広がりを持たせるにはああいう人物が必要でした。

--一昨年、「新日曜美術館」で銅版画家の浜口陽三さんの作品について語っておられましたね。「この闇が好きなんです」と。

山田 浜口さんのメゾチントという技法では、まずスペースを真っ黒にするところから始まる。その黒からレモンとかサクランボなどが色づいて浮かび上がってくる感じが、なんともトロンとした官能的な感じがして好きなんですよ。底辺に闇がある。

--「つかのま浮かんでいるような存在感。闇があって、ほっと光になって、また闇に飲み込まれていく」と。闇に浮かぶありふれたフルーツたち。まさに、ありふれた奇跡です。

山田 ははは。

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