撮影:岡嶋和幸

諦めたほうが多かった

ちなみに、岡嶋さんにとっての撮影日和は、雨が降りそうなベタ曇りだという。イメージする光がなければ、再び同じ場所を歩いた。

「陰影のないフラットな光のほうが撮りやすい。小雨くらいだったら、問題なく出かけます。逆に天気予報が外れて晴れてしまうと、撮影しても影の部分がつぶれてディテールが見えなくなってしまう。そんなときは気持ちを切り替えて、ロケハンの意識で歩きます」

ベタ曇りの日は光が弱く、速いシャッターを切れないが、三脚は使わず、全て手持ちで撮影する。

「三脚を使うと、構図をきっちり決めて撮ろうとする、いわゆる『仕事スイッチ』が入ってしまうんです。すると、その景色に出合ったときに『わあ、これいい』と感じたものがどんどん失われてしまう」

撮影の前に、撮ろうとする景色を注意深く観察し、人工物がないか、確認する。「何となく見ただけで撮ってしまうと、プリントしたときに空き缶が写っていたりしますから」。

どんなに撮影位置やアングルを変えても人工物が写り込んでしまう場合は撮影を諦める。せっかくいい風景を見つけても、ゴミが引っかかっていたりして、撮影を諦めた場所のほうが多かったという。

「撮影すると決めれば、もう頭の中に絵が出来上がっているので、あとはファインダーをのぞいて、ピントを合わせて、多くても2回シャッターを切るだけです」

撮影:岡嶋和幸

すでにいてもおかしくない

上流に向かうにつれて、川岸が背丈ほどの草でびっしりと覆われている場所が増えてきた。

「でも、所々に踏み跡があって、進んでいくと、大抵、釣りをしている人がいた。そこで撮ったりしたんですが、やはり画面に人工物が入ってしまうことがあって、そのせめぎ合いでしたね」

岸辺ではさまざまな小舟を目にした。

「草刈りをしていたおじさんに、『あの船は何に使うんですか』と聞いたら、『ウナギを捕るんだ』と言っていました」

自然が濃くなり、イタチのような小動物が目の前を通り過ぎた。

「イノシシのふんもたくさん落ちていた。遊歩道のど真ん中にもあって、すごい量なんですよ」

実は、千葉県のイノシシは豚コレラのまん延によって1980年代に姿を消した。現在、大繁殖しているイノシシは県外から持ち込まれ、放逐されたものとみられている。つまり、外来種だ。

「江戸川でキョンに出合うことはありませんでしたが、生息していてもまったく違和感のない環境でした」

首都圏を流れる江戸川の岸辺で見つけた「秘境」。そこにキョンが住み着くのは時間の問題なのかもしれない。

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】岡嶋和幸写真展「房総ランド 江戸川篇」
Jam Photo Gallery(東京・目黒) 12月5日~12月17日

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