
60キロ以上にもおよぶ九十九里浜を写した作品には南国を思わせる植物が生えている。メキシコなど、北米南部を原産地とするユッカランだという。
「もうユッカランは九十九里浜にわがもの顔で生えています。同じように、キョンも完全に根づいてしまうんじゃないか、と思いました。撮影していると、あちこちでキョンに出合うんですよ。本来は夜行性の動物なんですが、昼間でもそこらじゅうにいる」
キョンは姿が見えなくても独特の鳴き声ですぐにわかるという。
「人の叫び声みたいに、ギャーって、不気味な声で鳴くんです。うちの庭にも入ってきてプランターの花を食べてしまう」

東京に近い江戸川でも?
今年3月、外房の海辺を写した作品を「房総ランド」というタイトルで発表。さらに、その続編として、首都圏を流れる江戸川沿いの風景を撮り始めた。
江戸川は関東最大の河川、利根川の分流である。流頭部は千葉と茨城の県境付近で、約60キロを流れ、東京湾に注ぐ。
しかしなぜ、江戸川だったのか?
「東京に近い柏市でキョンが目撃された、というニュースを見たんです。それじゃあ、東京都の境を流れる江戸川にキョンを調査に行ってみよう、という感じで撮り始めた」
向かったのは東京ディズニーランドの最寄りのJR舞浜駅。すぐとなり流れる旧江戸川の河口から上流へ歩き始めた。1回の取材で歩く距離は10キロほど。
キョンがいそうな風景、というイメージなので、撮影する画面には人工物はいっさい入れない。しかし、河口から上流15キロ付近まではGoogleマップで見ても人工物だらけである。
「なので、このへんでは1枚も撮っていないです。でも、実際に歩いて見なければ何が撮れるかわからない。とにかく足で稼ぐしかないな、と思った」
ようやく作品になる写真が撮れたのは河口から約20キロの地点。映画「男はつらいよ」シリーズの舞台となった柴又帝釈天とを結ぶ「矢切の渡し」だった。周囲は野球場やゴルフ場に囲まれているが、この一角だけはうっそうと木が生い茂っている。写真には木の根元にヒガンバナが写っている。
「ヒガンバナも中国原産の帰化植物なんですよ。あちこちで目にしたセイタカアワダチソウ(北米原産)もそう」