ミッツ・マングローブ
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 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの連載「今週のお務め」。25回目のテーマは「成田離婚」について。

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「成田離婚」という言葉があります。今はあまり使われなくなりましたが、1990年代初頭ぐらいからまことしやかに浸透し、それを題材にしたドラマも作られるなど、平成の世相や価値観が凝縮された言葉のひとつです。

「成田」というのは、千葉県成田市にある成田国際空港(成田空港。旧称は新東京国際空港)のこと。1978年の開港以来、それまで東京国際空港(羽田空港)が担っていた国際線のほぼすべてが成田発着となり、文字通り「日本の空の玄関口」として君臨してきました。

 バブル景気とともに海外旅行がどんどん一般的になる中、「新婚旅行は海外へ」というのは、時代の圧倒的トレンドでした。毎日、多くの新郎新婦が豪華な結婚式を挙げた直後に、成田空港から飛び立っていたわけです。

 しかし、慣れない海外で露呈した男性の「頼りなさ」や「器の小ささ」に、幻滅してしまう新婦。もしくは女性側の「夢」や「期待」や「依存」に振り回され、うんざりしてしまう新郎が続出し、旅行中に夫婦関係は悪化。帰国と同時に離婚するケースも少なくなかったとか。それをキャッチーに表したのが「成田離婚」という言葉です。

 その背景には、男女雇用機会均等法施行による女性の社会的立場の変化や、好景気に伴う結婚のイベント化・ゲーム化など、様々な時代的要因があったと推察されます。また、「マザコン夫が新婚初夜に母親へ国際電話をかけた」とか、「新婚旅行に新郎の両親が同伴し、ホテルの部屋にまでついて来た」とか、いわゆる「男=雄」の精神的弱体化も、この頃からやたらとクローズアップされるようになったと記憶しています。
 

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