60歳くらいから脳の変化は始まる
80歳で認知症になる人は、60歳くらいから脳の変化が始まります。
あなたは、「認知症」という病気にどんなイメージをもっていますか?
「突然発症する恐ろしい病気」「いつ自分がなるかわからない」「防ぎようがない」。そんなふうに考えているかもしれませんね。
でも実際は、認知症は、毎日の生活習慣が大きく影響して起こります。
高血圧や糖尿病と同じように、長い歳月をかけて認知機能が衰えていき発症する生活習慣病の一つであり、認知症に至る20年も前から脳の病的変化が始まるといわれているのです。
生活習慣病は『早期発見、早期対応』が回復の決め手であり、それは認知症も同じこと。
「あれ?」と思ってから病院に行くまで平均4年
認知症の患者さんは、最初に自分が「おかしい」と感じてから、専門の医療機関を受診するまでに平均4年もかかっていることが、世界的権威のある医学誌『ランセット』で2021年に報告されました。
この4年の間に認知症は進行してしまいます。
認知症は、発症する原因によって「アルツハイマー型認知症」「脳血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」の4種類に主に分けられますが、どの場合でも、放置しておく歳月が長くなるほどUターン(回復)が難しくなります。
受診をためらう背景には、「認知症になったらおしまい」「知るのが怖い」という思いがあるのでしょう。
しかし、私は何度でも言います。
グレーゾーンの状態で適切に対処をすれば、認知症の発症を遅らせることができます。さらには、健康な脳にUターンして戻ってこられる可能性も十分にあるのです。
「あれ? いつもと違う」と思ったら、歯科医を受診するのと同じくらいの気軽さで、一度、認知症の専門医を受診してください。
それが「認知症の分かれ道」となるといっても過言ではありません。
2023年8月、治療薬「レカネマブ」が承認
認知症グレーゾーン、およびアルツハイマー型認知症に対する治療薬は、これまで症状を抑える対症薬しかありませんでした。
しかし、画期的な薬が日本で承認されることが、2023年8月に決まりました。
「レカネマブ」と呼ばれる薬です。
「レカネマブ」を投与した患者さんは、偽薬を投与した患者さんにくらべて、1年半後の認知機能の低下が約27%抑えられ、症状の進行をゆるやかにすることが、国際的な学会で発表されています。
「レカネマブ」を使用できるのは、脳にアミロイドβの蓄積が認められた早期のアルツハイマー型認知症の患者さんにかぎられます。
認知症グレーゾーンの段階であればUターンして回復できる可能性が高いので、早期発見・早期受診が最良の選択といえます。