(写真はイメージ/GettyImages)

 認知症になってから症状が一気に進行してしまう人と、現状維持を保てる人がいるが、その違いは何だろうか? 「認知症は早期発見・早期対応が大切。初期の認知症グレーゾーン(MCI:軽度認知障害)の時期に治療やセルフケアを行えば、進行をゆるやかにすることができます。さらに4人に1人は健常な脳の状態にUターン(回復)できるといわれています」と話すのは、認知症専門医・朝田隆(あさだ たかし)さん。朝田さんの著書『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』(アスコム刊)から、認知症が「進行する人」vs「Uターンする人」の違いを紹介します。

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認知症になる人は必ずグレーゾーンを通る

 認知症治療を専門とする私のクリニックに訪ねてくださった60代の女性の話をします。

「10個入りパックの卵を買ったことを忘れて3日も連続して買ってしまった」と不安にかられて訪れました。

 診断の結果、この女性は認知症ではありませんでした。

 かといって、正常な脳の状態でもありません。

「軽度認知障害(MCI)」と呼ばれる状態だったのです。

 MCIとは、日常生活に大きな支障はないものの、本人やご家族にとっては「最近ちょっとおかしいなあ」と感じるさまざまな警告サインを発する状態。

 正常な脳と認知症の間に位置する、いうなれば『認知症グレーゾーン』です。

 認知症になる人は、その前段階として必ず、このグレーゾーンの状態を通るのですが、すべての人が、グレーゾーンから必ず認知症に移行するとはかぎりません。

 認知症グレーゾーンの時期に、適切な対応をすることで認知機能の低下をゆるやかにし、認知症への移行を遅らせることもできます。さらに従来の報告によれば、4人に1人は健常な脳の状態にUターン(回復)できることがわかっているのです。

認知症からUターンする最後のチャンス

 認知症グレーゾーンの段階で何も手を打たなければ、5年以内に約40%の人が認知症になるといわれます。

 その差は、最初の「あれ? いつもと違う」という違和感に気づくかどうか。

 どうか、その「ちょっとおかしい」という直感を大切にしてください。

 もしそれが、認知症グレーゾーン(MCI)のサインだとすれば、認知症へ進む前にUターンして戻ってこられる最後のチャンスかもしれないのです。

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60歳くらいから脳の変化は始まる