軍事研究の狙いも

 国は大学に「選択と集中」によるイノベーションを求め、「稼げる大学」になるよう促してきたことも、法改正の背景にある。本田由紀・東京大教授(教育社会学)はこう憤る。

「政界では与党の支持率はダダ下がり。経済界も30年間低迷を続けている。そんなグダグダな人たちが法改正で大学に介入し、『この研究は稼げる』『あれは稼げない』と選別することになったら取り返しのつかないことになります」

 大学には非常に多様な研究があり、一見「稼げない」ように見える基礎研究や地域研究なども重要な役割を担っている。

「学外の委員の中には、所属する組織の利益を近視眼的に追い求める人が出てくる可能性もある。そうしたら、大学が営々と築いてきた、公共財である『知の土台』は壊され、取り戻すのは容易なことではありません」

 合議体の設置はもともと、東北大が候補として決定した、10兆円規模の大学ファンドの支援を受ける「国際卓越研究大学」が対象とされていた。それが一方的に拡大された形で、将来的には私大にも及ぶと見られている。

 京都大の駒込武教授(教育史)は「法改正の根拠に整合性がない」と批判する。「突然閣議決定され、国会でスピード可決を図ろうとした点も不審。これほど強引に推し進めるのは、軍事研究に消極的な旧帝大を法改正で組み込ませたい狙いがあるのではと思わざるをえません」

 学生も声を上げ始めた。東北大4年の山下森人さんは言う。

「僕は文学部で、学びたい研究があったのですが、指導者のポストがなくなり学べなかった。こうしたことは複数起きていて、さらに悪化しないか心配です」

 改正案には、大学の土地の貸し付けの緩和も盛り込まれている。「稼ぐ」ことが優先され、学生のサークルスペースや福利厚生施設がつぶされていくことも懸念されている。

 山下さんは訴える。

「学生にこれほど影響を与える法改正なのに、学生は置き去りにされています。国は大学を道具のように扱わないでほしい。私物化するな、と言いたい」(フリー記者 石田かおる)