イスラエルのオファキムで、ガザ地区から新たに開放された人質を載せた車に手を振る人々=11月26日(写真・AP/アフロ)

 イスラエルの左派系ニュースサイトが10月末に諜報省のロゴが付いたヘブライ語10ページの全文を掲載した。文書は10月13日付。イスラエル政府は政府文書であることを認めた上で、「政府の方針ではない」と重要性を否定した。ただし、文書はネタニヤフ首相の政治的立場を色濃く反映している。

 文書ではハマス打倒後のガザについて選択肢を三つ示す。

 A:ガザの人口を残して、西岸のパレスチナ自治政府を引き入れる。

 B:ガザの人口を残して現地のパレスチナ人による新たな統治を生み出す。

 C:住民をガザからエジプトのシナイ半島に避難させる。

ガザ住民を半島に移す

 文書ではC案について、〈イスラエルにとって前向きで、長期的に戦略的な利点を与え、実行可能な選択肢〉と評価する。ただし、〈国際的な圧力に対して政治レベルの強い決意が求められ、実施の過程で米国や他の親イスラエルの国々の協力が重要となる〉と書いている。

 一方、最も穏当と思われるガザを自治政府に統治させるA案に対して、〈最も大きなリスクがある〉と否定する。その理由は、〈西岸とガザの分裂がパレスチナ国家の樹立を困難にしてきた。この選択肢はパレスチナ民族運動にとって勝利を与えることになり、イスラエルの安全を保障しない〉。これはパレスチナ国家を否定してきたネタニヤフ首相の考え方である。

 ガザ全住民をシナイ半島に出すことについては、

 1、ガザの民間人をエジプト北部のシナイ半島に避難させる。

 2、第1段階ではシナイ半島にテントの町(複数形)をつくって住まわせ、次の段階で再定住のため都市が建設される。

 と、記している。諜報省文書の日付である10月13日の翌日の14日、カタールの衛星テレビ「アルジャジーラ・イングリッシュ」に登場したイスラエルの元駐米大使で元外務副大臣のダニー・アヤロン氏が「ガザの人びとを広大な土地が広がるシナイ半島に出して、テント・シティーに住まわせればよい。トルコがシリア難民200万人を受け入れたのと同じように」と発言し、注目を浴びた。

 中東訪問中だった米ブリンケン国務長官は翌15日にカイロでアラビア語衛星テレビ、アルアラビヤのインタビューでガザ民衆のシナイ半島移送について問われて、

「そのような構想の出る幕はない。米国は支持しない。(ガザの)人びとは彼らの故郷であるガザにとどまるべきだ」と答えた。

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