月曜日朝の朝礼は、普段は運動場だが、雨の日はここでやる。皆で床に油をひき、ふき取って磨いた上に椅子を並べた。そんな光景が浮かぶ(撮影/山中蔵人)
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 日本を代表する企業や組織のトップで活躍する人たちが歩んできた道のり、ビジネスパーソンとしての「源流」を探ります。AERA2023年11月27日号では、前号に引き続きローソンの竹増貞信社長が登場し、「源流」である竹増さんの母校・大阪教育大学付属池田小学校などを訪れた。

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 2020年4月6日、心に残っていた言葉を思い起こす。

 新型コロナウイルスの感染拡大に首相が翌7日、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県へ緊急事態宣言を出し、知事が住民に生活の維持に必要な場合を除いて外出自粛を要請する、と報じられた。

 報道で思い起こした言葉は、故郷の大阪府池田市で通った小学校で、校長が毎週月曜日の朝礼などで繰り返した「百里の道を行く者は、九十九里をもって半ばとす」だ。最後の最後まで気を抜くなとの教えは、アナリストやメディアがコンビニ市場成熟論を唱えるなか「いや、まだ50里にもきていないのでは。やれることは、まだまだある」と思わせてくれた。

 その思いを背に宣言が出る前日、各店に置いたストアコンピューターへメッセージを送る。書き出しは、感染拡大のなかで「地域のライフライン」として店を開き続けてくれている面々への感謝。続いて感染が疑われたらとってほしい措置、店員用だけでなく販売用のマスクや除菌スプレーの確保、本部の支援態勢を伝え、「宣言が出ても、何としても営業を継続できる体制をつくろう」と呼びかけた。

 感染が広がり始めたころ、加盟店から「開けていてもいいのか」と問われた。全国の店に、約15万人の仲間が立っている。彼ら彼女らの安全は、守らねばいけない。ただ、コンビニは街を支える存在だ、との自負がある。企業理念も「“みんなと暮らすマチ”を幸せにします」。全国に物流網があり、1店にスタッフが3人いれば、営業はできる。だから、宣言が出た翌週に「必ず社長として責任を持つから、安心して仕事に就いてほしい」と明言した。

 企業などのトップには、それぞれの歩んだ道がある。振り返れば、その歩みの始まりが、どこかにある。忘れたことはない故郷、一つになって暮らした家族、様々なことを学んだ学校、仕事とは何かを教えてくれた最初の上司、初めて訪れた外国。それらを、ここでは『源流』と呼ぶ。

ビロードの幕がある演壇の上から校長はあの言葉を言った

 ことし8月、母校の大阪教育大学付属池田小学校を、連載の企画で一緒に訪ねた。

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