西暦30年4月7日、イエス・キリストはエルサレムの外れにあるゴルゴタの丘で、十字架に磔にされた。その時、共に磔刑をうけていた強盗のうちの一人が「お前が本当に救世主なら、自分と俺たちを救ってみせろ!」とイエスに汚い言葉を浴びせた。それを制したもう一人の強盗・ディスマスに、イエスが天国行きを確約したことで“例外的に”聖人認定され、のちに「善良な強盗」という称号で呼ばれることになった。強盗の罪を犯し処刑されながら、聖人となって人生を大逆転させた男は、歴史上ほかに見つけられない。清涼院流水氏の新著『どろどろの聖人伝』(朝日新書)では、さまざまな聖人伝の中で、磔になってからのイエス・キリストの奇跡についても書かれている。同著から一部を抜粋、再編集し、紹介する。
* * *
エルサレムの外れにあるゴルゴタの丘で、イエスは十字架に磔にされました。それは、西暦30年4月7日金曜日の午前9時のことでした(処刑中に日蝕があったとの新約聖書の記述から日付を特定できますが、異説もあります)。多くの見物人が見守る中、イエスの両どなりには、ふたりの強盗が十字架に磔にされました。新約聖書には強盗ふたりの名前は記されていませんが、4世紀頃に成立した外典「ニコデモの福音書」には、その強盗ふたりの名前は、ディスマスとゲスマス――と記されています。