貧困の現場を長年見てきた作家の雨宮処凛さんは「雇用の安定化が最も重要」と強調する。

「そのためには、正社員になりたい人は正社員にし、非正規であっても、自立して生活ができ結婚や出産・子育てができる賃金体系にすることが必要です。一人一人がささやかな夢を叶えられ安定した生活ができ、10年先まで長期的な展望を持てる暮らしができるようになれば、社会は強くなります」

 森永さんは、政策として天下りの全面禁止と、財務省から国税庁を切り離して財務省の息がかからないようにすることが必要という。その上で、嫌な会社にしがみついて働いている人は「資本の奴隷から抜け出そう」と呼びかける。

「グローバル資本主義が奪ったのは仕事の楽しさでした。生産性を上げるため多くの仕事がマニュアル化されましたが、生産性を高めれば高めるほど、仕事がつまらなくなりました。こうして資本の奴隷になると、新たな挑戦をしないので付加価値が生まれません。日本が沈んでいったのは、これを30年間続けた結果でもあります」

「アーティスト」に希望

 森永さんは、これからは自分の好きな分野で創造性を生かし仕事をする「アーティスト」になることが重要という。アーティストとは、音楽家や画家といった芸術家に限らない。人工知能にはできない、創造的な活動をする全ての仕事を含む。

 ただ収入に不安が生じる。そこで、新たな社会保障制度として、国は全ての国民に一定額を定期的に支給する「ベーシックインカム」を導入するべきだという。金額は1人月7万円。必要な財源は100兆円ほどだが、国が国債を発行し、それを日銀に買ってもらい得た利益、「通貨発行益」を活用すれば増税せずに可能だと、森永さん。

「アーティストは巨額の富を築けないかもしれませんが、心の底から人生を楽しめます。資本の奴隷から抜け出し、アーティストとしてクリエイティブに生きることは、日本にとっての新たな希望になると思います」

 取り組むべきことは多い。しかし、長いトンネルを抜け出すには、柔軟性を持ち、変革に対応できる社会の構築が喫緊の課題なのは、間違いない。(編集部・野村昌二)

AERA 2023年11月27日号より抜粋

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