これによって、二大政党による政権交代ができる期待があった。だが、一つの議席を巡って勝つか負けるか争う小選挙区制においては、選挙至上主義になり、選挙で戦う相手に対して余裕ある態度を示せなくなった、と御厨さんは見る。
「決定的だったのは、小泉純一郎さんです。彼は、2001年に総理になると『自民党をぶっ壊す』といい、郵政事業や道路公団の民営化など壊す政治をやっていきました。そして05年には、参議院での法案否決を理由に衆院を解散します。憲政史上、前代未聞の事態でした。その結果、政治のモラルが崩壊し、『選挙に勝てば官軍』になってしまいました」
その後に続いた安倍政権では、選挙に常に勝つ「選挙至上主義」がさらに鮮明になった。12年の第2次安倍内閣からの約8年間、安倍政権下で毎年のように選挙が行われ、自民党が勝利した。御厨さんは言う。
「安倍政権の時、森友問題や桜を見る会はじめ、いろいろなスキャンダルが起きました。しかし選挙に勝ったのだから、野党に説明する必要はないという状況を生みました。一方で、野党も、国会では週刊誌で報道されたネタをそのまま持ち出すくらいで、自ら自民党を追及することをしなくなりました。こうして国会での議論がどんどん形骸化していきました」
岸田首相のモグラ叩き
そして、今の岸田文雄首相を御厨さんは「イデオロギーがない」と指摘する。
「岸田さんがやっているのは、一種のモグラ叩き。問題が出てくると叩いて応急処置はします。しかし、やっぱり物足りない。イデオロギーがないから日本をこうしたい、そのためにはこういう政策が必要だという、情熱も深い思い入れも見えません」
貧困、経済、政治……。このまま何の手も打たなければ、日本は「失われた40年」へと進むことになる。まるで出口の見えない、長いトンネルを抜け出す糸口はあるのか。
御厨さんは「政治は希望」だと言い、いま政治に求められるのは、「政治家が、100年の大計とまではいわないが、10年の計を立て、大きな図を描くことだ」と説く。
「そして選挙至上主義によって、まともな政策論争ができない新人議員がたくさん当選しました。そのため日本が何をしていけばいいかという議論が何もない。議員一人ひとり、何のために政治家になったのか問い直すことも大切です」