
そして「希望」のテーマを強く発信した新しい取り組みがあった。それは体操界のレジェンド内村航平さん(34)とのコラボレーションだ。五輪を連覇したカリスマ同士の共演である。
「普通のアイスショーではないことをしたいという企画のなかで、内村さんとのコラボの話が出ました」
第1幕の最後、金の刺繍(ししゅう)が胸元にほどこされた黒い衣装で2人は登場した。内村さんが円馬で旋回を始めると、羽生さんは同時にコンビネーションスピン。回転が見事にシンクロし、会場からどよめきが起きた。
■「試合感もありました」
羽生さんは一気に加速してジャンプコースに入っていく。内村さんも助走を始めた。羽生さんは4回転トーループを、内村さんは伸身の2回転ひねりを決めた。羽生さんはこう語る。
「なんか試合感もありました。僕自身は4回転を跳んで、内村さんも本気の技を繰り出してくださって。床とスケートリンクという場所は違うんですが、エネルギーが増幅して、支え合って、ぶつかって、みたいないろいろな力の掛け合わせみたいなものが見えました」
昨夏のプロ転向の会見で「競技会としての緊張感を味わってもらえるようなことをしたい」と話していたとおりだった。
お互いの刺激も大きかった。内村さんは、羽生さんの集中力に接した。
「本番前、2メートルくらいの距離感で、五輪や世界選手権の試合前の羽生くんが集中している、あの感じを生で見られて、『本当に全力なんだな』って。誰に対しても全力で、自分の思いをしっかりぶつけられる人間だなと感じました」
羽生さんも、内村さんに対して感じるものがあった。
「同じオーラを持っている人だな、とすごく思いました。競技とか技とか、そういう枠を超えて人を引きつけるカリスマ性的なもの。単純な言葉にすると、かっこいいなって思いました」

■希望となりますように
3月11日をまたぐ3日間で開催されたこのショーにとって、もっとも深い意味を持つ場面がフィナーレだった。初日はMISIAの「希望のうた」、GReeeeNの「道」のあと、羽生さんはマイクを握った。
「もうすぐ、あれから12年という時が経とうとしています。これからの人生でも、つらいこと、幸せなこと、苦しいこと、悲しいこと、寂しくなること、いろいろなことがあると思います。今日という日が、僕らの星みたいに輝いてくれたプログラムたちが、皆さんにとって少しでも希望となりますように」