ガザ地区の最大規模の病院、アル・シファ病院で治療する国境なき医師団の現地スタッフ。11月10日にはこの病院にも攻撃があったとされる=10月19日撮影(撮影 Mohammad Masri/国境なき医師団提供)

「自身で選んだ道を後悔したことはあるか」と記者が尋ねると、白根さんはこう答えた。

「それは一回もないです。母と電話がつながった時に、弱音を言ったことはありますが、2016年に国境なき医師団に入った時から、紛争地に行く仕事だと覚悟はあったので。海外派遣は今回が4回目で、ウクライナ、ガザ、アフガニスタンを経て、今年5月に、2度目となるガザに入りました。ただ、今回のようにこれほどまで長期間にわたって、一般市民も犠牲になるような紛争の真っただ中にいたのは初めてだったので、衝撃を受けました」

関心なくなるのが怖い

 出国は突然知らされたという。

「この現状に誰も関心を持たなくなってしまうことが怖い」と、ガザからの帰国早々インタビューに応じた白根麻衣子さん(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

「今月1日の朝、国境が開くから1時間以内に出発すると告げられ、私たち国際スタッフは国境に向かいました。でも今も現地スタッフは病院や診療所で患者さんの治療を続けてくれています。燃料はなく医療物資も不足し、彼らにも守るべき家族がいるにもかかわらず、です。そのことを考えると本当に苦しく、後ろ髪を引かれる思いでした。

 現地スタッフの多くから『あなたをこういう状況に置いてごめんね』と言われました。彼らに罪は全くないのに、自分たちの国がこんな状況でごめんね、と。彼らの温かい心に励まされ、人間としての強さ、優しさ、勇気ある行動に尊敬の思いでいます。彼らをはじめ、多くの一般市民のためにも攻撃の即時停止を心から訴えたいです」

 今、何を思うのか。

「戦争は悲惨で愚かなことです。自分たちの育ってきた家や街が一瞬で壊され、家を失って避難生活が続いています。精神的な疲弊や不安は大きいです。命だけではなくて、日々の幸せな生活や日常も失ってしまう。この現状に誰も関心を持たなくなってしまうことが一番怖い。『民衆の声が世界を変える』と信じて発信を続けていきたいです」

(構成/編集部・古田真梨子)

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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