ミッツ・マングローブ

 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの連載「今週のお務め」。22回目のテーマは「自宅で発見した『爆弾』」について。

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 先週、このAERA dot.の原稿を書いていた時の出来事です。書き物をするのは、基本的に街の喧騒がある程度収まった深夜。その日もすでに午前2時を回り、付近の飲食店でくだを巻く酔客の奇声も、大通りを走る車の音もほとんどしない、とても静かな秋の夜でした。

 例によって筆は進まず、聞こえるのはパソコンのキーボードを打つ音と、慢性の耳鳴りだけ。そんな中、遠くの方で「ピッ! ピッ!」という電子音が微かに鳴っているのに気づきました。

 暖房や冷蔵庫、オーディオやテレビ、食洗器に電子レンジ。彼らが定期的に発する音は、たいてい聞き分けられる自信があります。しかし、その「ピッ!」は、我が家のどの電化製品からも耳にしたことのない音です。しかも5秒おきぐらいの比較的ゆったりとした間隔で、何かを訴えるかのように弱々しく鳴っているのです。

 2LDKの部屋をウロウロと歩き回り、壁に耳を当てたり、こっそり玄関の外を覗いてみたりしたものの、「ピッ!」の正体は一向に掴めません。それどころか、生活空間を埋め尽くす電化製品の多さに改めて愕然とするばかり。インターホン、Wi-Fi、給湯器、掃除機、空気清浄機、ドライヤー、電動シェーバー、電子ピアノ、さらには中古のパチンコ台まで……。もちろんすべて通電状態です。

 いっそ部屋の電源ごと落とそうかと思いましたが、日々衰えつつある聴力を鍛えるためにも、とにかく耳を澄まし全集中した結果、「ピッ!」の出所は洗面所の床であることが判明。そこには洗濯物を入れる籠と詰め替え用のシャンプー類、そして見覚えのない小さな無地の紙袋がひとつ置いてありました。

 紙袋には、これまた何も書いていない15センチ四方の箱が入っており、耳を近づけてみると、今まででいちばんクリアな「ピッ!」が聞こえてきました。
 

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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