おそらく誰かから頂いたプレゼントを、何カ月も放置してしまっていたのでしょう。だとしても何故に今頃になってそんな電子音が鳴り出すのか? 謎はいつしか恐怖に変わり、私の脳裏には「爆弾」という二文字が浮かんでいましたが、「極力刺激を与えなければ大丈夫だろう」などと都合の良い解釈にすがりながら、慎重に箱の蓋を開けました。
中には球体型の発泡スチロールが雪のように詰まっており、爆弾の姿は見えません。代わりに一枚の紙が床に舞い落ちました。見ると、眼鏡をかけ歯茎を露出させながら笑うオバさんの似顔絵とともに、「私が作りました」的な英文メッセージ、さらには「Bath Bomb」と書いてあるではありませんか。
「Bomb=爆弾」。それを今、私は両手で抱えてしまっているのです。もはや慌てたからと言ってどうにかなる状況ではない一方、かと言って思考停止に陥っている場合でもなく。とりあえずゆっくりと箱の蓋を閉め、そのまま摺り足で洗面所を出て、キッチンの方へ向かいました。その間も5秒おきに「ピッ!」は力なく鳴り続けています。
110番をして、状況を説明して、国の爆発物処理班に出動願うこともできたかもしれません。しかし「40代独居オカマの爆弾騒ぎ」ごときで、お国の手を煩わせるなど言語道断です。だけどこのままだと、私はおろかマンションごと吹っ飛んでしまうかもしれない。
私のできることなど、爆弾の入ったその箱を90リットルの半透明ゴミ袋に投げ入れて、他のゴミたちと一緒に括り、それをマンション地下のゴミ集積所に置いてくることぐらいです。だけどそれでは、明朝ゴミの整理に来た、いつもやさしい管理人のおじさんを危険に晒すことになってしまう。それ以前にエレベーターで地下へ運ぶ途中に爆発したら、マンションもろとも大崩壊するかもしれない。
様々な選択肢で混乱状態になった私は、あろうことか爆弾を入れた90リットルのゴミ袋を玄関外のエレベーター前に置き、自分だけは一度家の中へ逃げ込んでしまったのです。