「ボクシングのタイトルマッチのようなもので、挑戦者(新たな治療法)が勝つこともあれば、チャンピオン(現在の標準治療)が防衛することもある。ある意味、標準治療は現在のチャンピオン治療と考えていいでしょう」
一方で、「最新治療」「最先端の治療」が「最良の治療」と考える人もいるでしょう。しかし、最新治療はまだ研究段階で、本当に効果があるか、安全かどうかは検証中のため「新しい治療を受けたい」と考える場合には、より強い副作用などのリスクについても理解しておく必要があります。
また、標準治療がないがんもあります。
「希少がんなど、数が少ないがんでは標準治療として認められるまでの科学的な根拠がそろわないこともあるためです。ただし、それらのがんを専門にみる医師の中では、経験上、標準治療といえるような治療法があり、その患者さんに最良と考えられる治療法が提案されるはずです」(若尾医師)
同センター東病院呼吸器外科長の坪井正博医師は、「最良の治療は患者さん一人ひとりで異なり、それを知るのは主治医」と言います。
「標準治療は効果や安全性が証明されていて、起こり得るリスクもある程度わかっていて、多くの人にすすめられる治療ですが、あくまでも目安の一つ。例えば、肺がんのⅠ期では手術が標準治療ですが、年齢や体力により手術ができない人もいれば、どうしても手術はしたくないという人もいます。そういう人には、『放射線治療という選択肢もあります。ただ、その場合は極早期がんを除いて2割ぐらい再発の可能性があります』などと説明し、そちらを選択する患者さんもいます」
大切なことは、医師と患者が十分に話し合って患者が理解した治療法を決めていくことだと今回取材した二人の医師は口をそろえます。まずは医師がその患者のがんの状態や、最良と思われる治療法を提案し、メリットとデメリットを伝えます。患者も、自身の希望と、不安や疑問があれば医師に伝えることが必要です。その上で、十分に相談し、最終的には患者が納得して治療法を決めることが大切です。