事件が大きく動いたのは21年4月。須藤被告が殺人と覚醒剤取締法違反容疑で逮捕、5月に起訴されたのだ。県警は自殺や事故の可能性は極めて低く、事件とみて捜査。須藤被告が野崎さんに覚醒剤を飲ませたとする直接的な証拠は出てきていないが、野崎さんが死亡した日の夕方に須藤被告と2人だけの時間があったことや、須藤被告が覚醒剤の密売人グループと接触していたことなど様々な状況証拠の積み上げから、野崎さんを殺害できたのは須藤被告以外にはありえないと判断したと見られる。
ただ、現在に至るまで、須藤被告の刑事事件の裁判は始まっていない。
「全財産を田辺市にキフする」
先に動きがあったのは、野崎さんの資産を巡る争いだ。野崎さんが生前経営していた貸金業の会社幹部のもとに、野崎さんの「遺言書」があったことがわかった。
2013年2月8日に書かれたものとして、
「個人の全財産を田辺市にキフする」
という内容を赤いペンで記し、署名して実印を押していたのだ。
田辺市は、裁判所で遺言書の「検認」という手続きを経て、有効との判断を得た。そこで、市が野崎さんの遺産を調査した。野崎さん所有の豪邸や会社、不動産、有価証券、現金などの総額は額面で約26億円。不動産などを鑑定評価して出された総額は約15億円。そこから野崎さんの負債を差し引くと約13億5千万円という膨大なものになると、2019年8月の市議会で報告された。
紀州のドン・ファンの全財産が記録された田辺市の報告書【独占全文入手】
だが、野崎さんの遺言書を巡り、兄弟や親族らが2020年4月に「遺言無効確認請求」の訴訟を和歌山地裁に起こした。田辺市を相手取り、遺言書が真正なものかどうか争っている。