しかし、一方で、
「遺言書の文字は(野崎さんに)似ている点もある」
と話した。
AさんとBさんの主張が対立するなかで、野崎さんの親族の訴えが認められた場合、田辺市は遺贈を受けられなくなる可能性が高い。野崎さんの13億5千万円の遺産の取り分は、須藤被告が4分の3で約10億円あまり、残り4分の1の約3億5千万円を野崎さんの兄弟側で相続する計算だと、訴状にはある。
近隣は驚き
生前、野崎さんやその兄弟とも親しかった地元の人は、
「幸助は確かに兄弟とは仲良くなかった。けど、カネで物事を決める人だったので、全財産を田辺市というのも不思議。『幸助が貸金業で大きく財を成したのは親の資産が元手だったから。少しでも残してほしいと裁判にした』と兄弟の一人は話していた。幸助は結婚した時に須藤被告も紹介してくれた。えらい若いべっぴんさんでびっくりした。幸助が急死したことを聞いてまた驚いたが」
と話した。
野崎さんが亡くなってから5年、田辺市の高台にある豪邸の所有権は、遺言書通りに田辺市に移転している。だが、裁判になっているため手つかずのまま。今年春、様子を見に筆者が訪れた時は、ひっそりと静まり返り、
「出入りする人もおらず、手入れが行き届いていた庭もあれてしまっている。たまに事件の現場だと知って野次馬が来る程度」
と近所の人が話していた。
市長との関係は? 市議会は紛糾
一方、野崎さんと田辺市の真砂充敏市長は、飲食をともにするなど親密な関係だった。野崎さんが亡くなった後、田辺市への遺言による寄付(遺贈)のことが市議会で審議されるようになると、
「役人嫌いだったと言われる故人(野崎さん)が市に財産を全額寄付するとは、よほど田辺市と、あるいは市長との間に信頼感があったのではないか」「疑義が深まっている」「真砂市長は答えるべきだ」
などと質問が出て議場が騒然となるなど、野崎さんの遺贈を巡っては市議会も大きく揺れた。