批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。
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最高裁が性同一性障害特例法の生殖不能要件を違憲とする決定を下した。
特例法は、戸籍上の性別を変更するためには生殖機能を失わねばならないと定めている。今回の申立人は未手術のトランス女性で、家裁と高裁では規定を理由に性別変更が認められなかった。そこで最高裁に特別抗告し、手術の強制は憲法違反だと主張した。それが認められたかたちだ。
とはいえこの決定はただちに手術なしの性別変更への道を開くものではない。特例法にはもうひとつ「変更する性の性器に似た外観を備えている」という規定があるからだ。この規定があるかぎり、男性から女性への性別変更では陰茎の切除が必要になる。最高裁はこちらについては判断を下さず、高裁に審理を差し戻した。
生殖腺の除去は身体に強い負担をかける。健康も害する。現状は性自認の違和を理由に国民の一部の幸福追求権を著しく侵害しているかたちで、違憲判断は妥当だ。