絵本作家にとどまらずアーティストとして活躍する荒井良二さんの展覧会が千葉市美術館で開催中だ。B面狙いのアーティストの、独特の荒井ワールドをご堪能あれ。AERA2023年10月30日号より。
【写真】初公開!ピカソや印象派の画集を荒井さんが模写した作品がこちら
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「子どものような心を持った人」
新人ライターのころ、「あまりにもありがちなので人物描写で使ってはいけない」と先輩に教えられたフレーズだ。
かたや、この方に限ってはどうだろう。「子どものような心を持った人」を使っても、先輩も許してくれる自信がある。絵本作家、アーティスト、また美術展のプロデューサーとしても活躍する荒井良二さんだ。
出版されている絵本作品は100冊以上。そのひとつ、読み聞かせ活動をしている知り合いのママが、「子どもたちに人気がある」とおすすめしてくれた『バスにのって』(偕成社)という絵本を開いてみた。
ちょっと不思議な物語
どこかの異国にありそうなカラフルなバス停で、「とおくへいく」ために、大きな荷物とともにバスを待つ主人公。でもバスはなかなか来ない。トラックが通り過ぎ、馬や自転車に乗った人が通り過ぎるが、夜になっても、そして朝になってもバスは来ない。ゴオーッという音を立ててやってきたバスは満員。主人公はバスに乗ることを諦めて、歩いて「とおくへいく」ことに。
そんなちょっと不思議なストーリーが、「子どものような心を持った人」ならではの、カラフルでプリミティブな絵とともに進んでいく。
「よく言われます。『バスにのって』というタイトルなのに、一度もバスに乗ってないじゃないかってね(笑)」(荒井さん)
今回、千葉市美術館で12月17日まで開催中なのは、そんな荒井さんの個展「new born 荒井良二 いつも しらないところへ たびするきぶんだった」だ。
独特な筆遣いを間近で
目玉となっているのは、代表的な絵本作品の原画の展示。絵本ではあった文字が消え、1ページが1点ずつのアート作品となって、絵本だったときと同じくらい饒舌(じょうぜつ)に語りかけてくる。ときには指に絵の具をつけて描いたり、また色鉛筆の芯だけで描いたものがあったり。そんな荒井さんの作品ならではの独特な筆遣いを間近で楽しめる展覧会となっている。
2010年代以降、アーティストとしての作品集も出版、芸術祭「山形ビエンナーレ」の芸術監督を務めたほか、東日本大震災後の東北に関わる活動など、絵本作家を超えた「しらないところへたびする」ようになった足跡も紹介されている。