当初、日本版DBSは秋の臨時国会で法案が提出されることになっていた。だが、与党内からも異論が噴出。臨時国会への提出は見送られ、来年の通常国会提出を念頭に準備を進める。

 卑劣な犯罪をなくすには、加害者の更生も不可欠だ。

 長年、性犯罪加害者の再犯防止教育にあたる精神保健福祉士・社会福祉士で『「小児性愛」という病─それは、愛ではない』の著書もある斉藤章佳さんは、大船榎本クリニック(神奈川県鎌倉市)の精神保健福祉部長として、加害者の再犯防止に軸足を置いた治療プログラムを行っている。治療は(1)認知行動療法、(2)薬物療法、(3)性加害行為に責任を取る──の3本柱で行う。どういった治療なのか。斉藤さんは言う。

「まず、認知行動療法とは、再犯しないためのスキルや方法論を学び、認知の歪みに取り組む治療です。例えば、道で女の子とばったり会った場合、バレずに加害行為ができるという思考が出た際、目を閉じてその場をやり過ごす、または別の道から帰るなど、具体的な対処行動をプログラムで学んでいきます」

 行動が変われば思考が変わる。次の段階で、認知の歪みにアプローチしていく。自らの中にある偏った思考パターンに焦点を当てて、それへの反応の仕方を学んでいくという。

 薬物療法は必要に応じて行い、最後は、性加害行為に責任をとるという視点で、自らの加害行為がどのような影響を被害者に与えたかを学んでいく。

 治療は再犯リスクにあわせ「低」「中」「高」の3段階に分け、いずれもおおむね3年かけて実施する。その結果、自分の欲求や衝動を統制する力がついてくるという。ただ、治療に強制力はない。斉藤さんは言う。

「性犯罪をゼロにするのは現実的に難しいと思います。しかし、減らしていくことはできます。そのためには、早い段階で治療につながることが再加害防止の取り組みになると、私たち社会が認識するのが大事。再犯を減らせば、新たに被害者になる人を減らすことにもつながります」

(編集部・野村昌二)

AERA 2023年10月30日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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