AERA 2023年10月30日号より

手あげ制で漏れる懸念

 性犯罪被害者の支援に取り組む上谷さくら弁護士は、日本版DBSについて次のように話す。

「特に子どもにとって性犯罪は、被害と認識しづらい犯罪類型です。しかも、被害に遭った時、大人より力が弱かったりして、自分の身を守ることができません。被害者を出さないためには加害者を子どもに接触させないことが効果的で、日本版DBSは期待できます」

 ただ、こども家庭庁がまとめた日本版DBSは「抜け穴が多い」と指摘し、「論点が三つある」と語る。

「まず、学習塾など民間事業者に対しては、希望する事業者だけが参加する“手あげ制”になっている点です」

 同庁は、学校や保育所、児童養護施設などに性犯罪歴の確認義務を課す一方、学習塾やスポーツクラブなど民間事業者は国の管轄ではないため、任意の手あげ制にしてDBS導入施設に「認証マーク」を付与するとしている。上谷弁護士は言う。

「手あげ制だと、個人で子どもに勉強を教える人は制度から漏れ、そこで性加害を行う懸念があります。職業で区別せず、子どもと接する時間が長い人を対象とするべきです」

 二つ目の課題は、「性犯罪歴」だ。日本版DBSで確認を求めるのは不同意性交罪など刑法犯の有罪判決(前科)が対象で、不起訴処分や痴漢などの条例違反は対象外としている。

「条例は都道府県によって中身が違うため対象から省かれていますが、刑法犯の証拠が足りず、より軽い条例違反に落とされるケースが圧倒的に多い。条例違反もれっきとした前科ですから対象に含めないと、意味がありません」(上谷弁護士)

 三点目は、「登録期間」だ。同庁は、データベースに犯罪歴が登録される期間は刑法との整合性から刑を終えてから10年としている。そうすると10年たてば教育現場に戻れてしまう。

加害者の更生も不可欠

 この点を上谷弁護士は、昨年施行した「教員による児童生徒性暴力防止法」に基づく免許失効者の情報を記録したデータベースは過去40年分の処分歴を照会できるので、こうした制度を念頭に登録期間を10年より延ばすべき、と語る。

「最初から完璧な制度をつくるのは難しいですが、ある程度実効性のあるものをつくり、改正しながら整備していくことが重要です」

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