性犯罪歴を確認する日本版DBSの法案成立が急がれる。「日本版DBSは、初犯の抑止力にもなると考えられます」(上谷さくら弁護士)(撮影/写真映像部・高野楓菜)
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 子どもへの性暴力を防ぐのは、ほぼ不可能と言われる。重要なのは再犯の防止。その切り札として期待されているのが「日本版DBS」だ。AERA 2023年10月30日号より。

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 性犯罪は、事前に加害者となる人物を特定し未然に防ぐのはほぼ不可能とされる。重要となってくるのが、再犯防止だ。

 15歳の時からおよそ4年間、通っていた札幌市内の中学校の男性教員から、繰り返し性暴力を受けた石田郁子さん(46)は、当事者団体「Be Brave Japan」を設立し、子どもへの性暴力防止の活動を続けている。石田さんは、性犯罪の再犯防止には「公訴時効の撤廃が必要」と訴える。

「子どもの場合、性的な経験がなく人生経験も短いので、被害を受けても何が起きたのかわかりません。性犯罪だったと認識するのに、数十年かかることもあります。それを考えると、公訴時効が短すぎます」

 今年7月に施行した改正刑法により、同意のない行為による「不同意性交罪」の公訴時効は5年延長され15年となった。だが、特に幼少期は被害の認識が難しく、トラウマと結びつく記憶喪失もある。

 石田さんが男性教員から受けたのが性暴力だと明確に認識したのは2015年、37歳の時。最後に被害に遭ってから18年たっていた。男性教員から「かわいい」「好きだ」などと言われ、真摯な恋愛だと思いこまされていた。その後、PTSDと診断されフラッシュバックなどに苦しめられた。治療につながり、2年前に症状が治まる「寛解」の状態になったという。男性教員は21年、石田さんにわいせつ行為を働いたとして懲戒免職処分となった。石田さんはこうも言う。

「加害者は、子どもが訴えることができない何十年もの間に、多くの子どもに性暴力をする可能性があります。それを考えると、公訴時効15年は短すぎます。撤廃するべきです」

 そして今、性暴力の再犯防止の切り札として期待されているのが「日本版DBS」だ。「DBS」は、Disclosure and Barring Serviceの略称で、「前歴開示および前歴者就業制限機構」と訳される。子どもと接する職業に就く人の性犯罪歴を確認する制度で、英国の制度「DBS」を参考に、こども家庭庁が導入に向けた議論を進めている。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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