「ゴジラ」 1984年(第16作)ゴジラ=恐怖の存在と再び位置づけた作品。対象年齢も子どもから一般へと引き上げ、ヒットした(c)TOHO CO., LTD.
「ゴジラVSメカゴジラ」 1993年(第20作)ベビーゴジラを登場させるなど生物と機械の戦いを際立たせた作。初めて京都が襲撃された(c)TOHO CO., LTD.
「ゴジラ FINAL WARS」 2004年(第28作)ゴジラ生誕50周年記念作品。登場怪獣はシリーズ最多の15体。ゴジラ俳優の宝田明らも出演(c)TOHO CO., LTD.
「シン・ゴジラ」 2016年(第29作)東日本大震災を踏まえたとされる。危機下の緊迫を高速な台詞で描く。国内興収は82.5億円(c)TOHO CO., LTD.

映画の枠を超えて増殖

 99年の23作目「ゴジラ2000 ミレニアム」から04年の28作目「ゴジラ FINAL WARS」までは「ミレニアムシリーズ」と言われる。ゴジラは「自然災害の脅威」としてとらえ直されるが、相変わらず怪獣同士の格闘が続いた。

 ゴジラシリーズは一旦、終止符が打たれたが、ハリウッド版の成功の影響もあり、再び息を吹き返す。16年の29作目「シン・ゴジラ」。これも「ミレニアムシリーズ」同様のゴジラ観だ。このゴジラの特徴は何といっても、進化論的な形態変化だろう。魚類、両生類、爬虫類など計5形態に変容。これまでのシリーズ作が、濃淡はあっても、初作とのつながりがあったのに対し、「シン・ゴジラ」は、謎の巨大生物に初めて遭遇する設定になっている。

 ゴジラは、映画の枠を超えて増殖した。元プロ野球選手の松井秀喜の愛称は「ゴジラ」。いかめしい姿で人智の理解を超える能力を示す者への敬称ともいえる。各地の奇岩を「ゴジラ岩」と呼ぶこともある。ゴジラをテーマにしたアニメや人形劇も生まれた。

 米国など海外での人気も高く、文化論的な考察も盛んだ。

 東日本大震災の後に被災地を踏査した仏作家のクリストフ・フィアットは『フクシマ・ゴジラ・ヒロシマ』を著した。この中で、現場で鋭く耳をつんざくような幻の音を聴き、フィアットはこれを「理屈じゃない…(中略)…そうだ、ゴジラの鳴き声だ」と得心した。

 大地震などの自然災害も、原子力発電所の事故も、核分裂を利用する原爆も核融合を利用する水爆も、第2次世界大戦時の大空襲も、とどのつまりはゴジラの面影と共鳴するようだ。

 いくら親しみ深くとも、ゴジラは、行き過ぎた科学文明や戦争、自然災害などの申し子なのだろう。そしてゴジラの本質は、それらに無念にも踏みしだかれた人々の解けぬ思いを照射し続けるのだ。(著述家・米原範彦)

AERA 2023年10月30日号

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