大谷は右脇腹を痛めた影響などで、25試合を残したところでシーズン終了となったが、打率.304、44本塁打、95打点、20盗塁をマーク(写真:AP/アフロ)
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 今年3月、侍JAPANのWBCでの活躍に日本中が沸いた。一方、調整を前倒しにしたことがレギュラーシーズンに影響するとも言われていた。実際はどうだったのか。AERA2023年10月30日号より。

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「奥さん、ご主人に野球中継を見せてやってくださいよ」

 平成の初めのころのこと。部署の忘年会のあとうちにやってきた夫の上司に、そんな余計なお世話を言われたことがある。

 小娘だったそのころの自分といえば、大がつく野球嫌い。交代だ、CMだ、とダラダラしててスピード感がないし。第一おじさん臭くていけないや。そんな妻のチャンネル統制を聞きつけた上司の進言だった。

 あれから数十年。ずいぶん時間はかかったが、野球に癒やされる当時のおじさんたちの気持ちが、ようやくわかるようになってきた。

 ダラダラしているように見えた試合運びは、瞬間沸騰するときのためのプロローグに思えるようになり、おじさん臭いどころか、若さがみなぎっている(選手が全員、自分よりずっと年下になったのもあるが)。

 変心のきっかけは、今年のWBCだった。大谷翔平とか、ダルビッシュ有とか、自分も知っているようなスター選手が勢ぞろい。ヌートバーという愛くるしい新キャラも誕生してペッパーミルパフォーマンスが大流行とか、今年の新語・流行語大賞の大本命と目される大谷の名ゼリフ「憧れるのをやめましょう」とか、あっという間に日本中の話題をかっさらっていった。

決勝の九回の名勝負

 そしてクライマックスは3月22日にマイアミでおこなわれたアメリカとの決勝戦の九回。マウンドに立った大谷と、同じエンゼルスのマイク・トラウトとの対戦だ。

 にわか、なので正式名はわからないが、大谷が左にキューンと曲がるボールを投げ、トラウトが全力で空振りしたシーンは、今や自分の脳内で編集されてスローモーションの記憶に。歓声が止まり、ボールが飛ぶブォォォオ〜ンという効果音とともに2人の筋肉がゆがんで汗もはじける……みたいな。とまあ、それくらいドラマチックなラストシーンだった。

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