それでも、引退議員の配偶者と3親等以内の親族を対象に「同一選挙区から立候補する場合、次の総選挙から公認、推薦しない」と公約に書き込んだのだが、喉元過ぎれば何とやらで、民主党政権が有権者からソッポを向かれ、自民党の政権復帰が見えてくると、「世襲制限」は雲散霧消した。公募という形式を建前にして、世襲は元通りだ。

 一方で、世襲議員に対する有権者の不満は依然、強い。

 前述した岸信千世氏が薄氷の勝利だった補欠選挙で、選挙区の衆議院山口2区の投票者を対象に行った報道機関の出口調査では、「世襲」について「好ましくない」と答えた人が過半数に達している。

 岸田文雄首相が政治経験のない長男を首相秘書官に就けたことにも世論の批判は大きかった。将来の世襲を想定した“箔づけ”が露骨だったからで、その長男が首相外遊時の同行出張で公用車を使って観光していたり、公邸内ではしゃぐ宴会写真を撮っていたりしたことが報じられると、内閣支持率は急落し、岸田首相は息子の秘書官更迭に追い込まれた。

 だが、それでも今の自民党に再び「世襲制限」を導入しようという機運はない。09年の時のような政権から追い落とされる恐怖を感じていないからだ。

 23年9月に発足した岸田再改造内閣でも、首相を含め閣僚の4割を世襲議員が占めた。

 有権者の側が先に世襲政治に引導を渡さなければ、この先も何も変わらないだろう。

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