ミッツ・マングローブ

 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの連載「今週のお務め」。19回目のテーマは「ジャニーズ事務所の社名変更」について。

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 10月16日をもって、ジャニーズ事務所が社名を変更しました。新しい社名は「SMILE-UP.」。今後は芸能事務所としての機能を新会社に移行させ、「SMILE-UP.」は補償業務のみを行う組織となります。

 先の記者会見などで旧ジャニーズ側は、「ジャニーズと名の付くものをこの世からすべてなくす」ことで、一連の問題に対してけじめをつける姿勢を示しました。それぐらい目に見える行動を取らなければ、被害者はもとより、世間の赦しにも繋がらないだろうと判断したのだと思われます。
 

 言葉や名前を禁じさえすれば、そこにまつわる問題や不都合が解消されるという考え方は、確かに一定の効果はある一方で、「臭いものに蓋をする」だけで片付いた気になってしまうという危険も孕んでいます。

 例えば、メディアにおける「差別用語」や「自主規制用語」などがまさにそうです。「オカマは差別に当たるのでオネエと言いましょう」と規制をしたところで、その奥に潜む本質的な問題は何ひとつ解決されていなければ、何がどう問題なのか理解すら及んでいなかったりもします。

「誰かを傷つけるかもしれない」「誰かに怒られるかもしれない」を回避するためだけに、自分の「言葉」や「表現」に臆病になり、皆とりあえず当たり障りのない「代用品」で場を凌いでいるのが現代社会の姿です。

 被害者の気持ちを少しでも救うためにも、「ジャニーズ」という名前や字面や響きを抹消するという判断は理解できます。しかし世間が今後、ただ闇雲に「ジャニーズ」をNGワード扱いにし、その都度ビクビクしていくことが、果たして未来に何を伝えていくのかと疑問に感じるのもまた事実です。
 

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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