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 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、NHKで放映された「松本人志と世界LOVEジャーナル」の緊迫感と到達点について。

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 30年近く性に関係する仕事をしているなかで、たくさんの女性の話を聞いてきた。私はたぶん、日本で一番、女にバイブを売った女ということになるのではないかと思う。それでも未だに、性の話は難しいと感じている。1対1の関係でお客さんと話したり、友だちどうしで話すことはできても、未だに公共の電波で性の話をどのようにするか……というのは、まだまだ手探りの状況なのではないか。

 少し前のことだけれど、ラジオ番組でクリトリスの説明をしたら、「クリトリスはNG」と言われた。法律で決まってるわけじゃない。ただ、公共の電波の現場では、性に関して「ここまではアリ?」と手探りの状況で、他社をうかがいながら恐る恐る発信している空気がある。

 そういうなか、NHK総合で、海外の性事情から最新の大人のオモチャまで扱う性の番組「松本人志と世界LOVEジャーナル」が放送された。これはかなり思い切ったことだろう。もちろんEテレには性教育番組があり、障害がある女性たちが性やプレジャーについて語った「バリバラ」など画期的な取り組みもある。が、NHK総合で、誰もが知るお笑い芸人の名を冠にして行う性の番組は、「ここまで語ってOKよ」とでもいう、今の日本のある種の基準をつくるようなものでもある。制作はかなり慎重に行われてきたのではないかと察する。

 一方、番組情報が公開されるとすぐに、松本さんの過去の買春容認発言などが指摘され、放送中止を求める抗議の声がSNSであがった。また、私は知らない人だったが、出演者の一人の男性がフェミニスト嫌いのようで、番組への抗議がはじまると「アホのフェミニストが騒いでる」と挑発し、「フェミニズムとフェミニストは金とばい菌ぐらい違う」(←意味わかりません)など迷言を繰り広げたりした。彼は数カ月前に、男子高校生が女子のお風呂をのぞくことをちゃかし肯定するような投稿をしたりなど、性に関しては男根中心思想のよう。慎重なはずのNHKがまさかのこの人選……いったいどんな番組になるのか……と見てみた。

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緊迫感ありすぎ、自分を発揮できないでつらそう…