宮田は会心の指し回しで、見事に白星を挙げた。
「(思い出深い対局は)やっぱり中原さんに勝った一局ですね。終盤、ギリギリのところに踏み込んでいった。よくやったかなと思います」
宮田はこの頃好調で、王座戦の挑戦者決定戦にも進んだ。そこで待っていたのは中原だった。熱戦の末、今度は宮田が負けた。
「勝ちたかったんだけどやっぱり、ちょっと足りなかったですね。いま思うと残念というよりは、よくぞここまでやったな、ぐらいかな」
宮田は現役中、ついにタイトル挑戦にまでは至らなかった。しかしその夢は、優秀な弟子たちが成し遂げている。2019年度、本田奎(現六段)は渡辺明棋王に挑戦した。宮田は自宅にしまっていた和服を2着、愛弟子に贈った。
「私自身は、和服で正座はあまり好きじゃないんですよ(笑)。もちろん大切な日本の文化ですし、口ははさみませんが、長い時間正座するのは、身体がわるくなる元なんじゃないかと思ってます。世界中に広めようと思うんだったら、椅子の方がいいんじゃないかな。そのうちそうなるとは思いますけどね」
現在は伊藤匠七段が藤井聡太竜王に挑戦中だ。第1局は10月6・7日、都内の渋谷でおこなわれた。宮田は目立たぬよう、少しの間だけ、現地解説会場の後ろで見ていた。
「伊藤は伊藤で考えてたと思うんですけど、たぶんその思考を察知されていた。最後まで受け一方になっちゃって、ちょっと残念だったかな。『やっぱり藤井、強いわ』と思いました(笑)」
(構成/ライター・松本博文)
※AERA 2023年10月23日号