高柳敏夫名誉九段の門下からは宮田利男のほか、芹沢博文九段、中原誠十六世名人、田中寅彦九段、島朗九段、蛸島彰子女流六段、清水市代女流七段ら、多くの優れた弟子が育った

 宮田は会心の指し回しで、見事に白星を挙げた。

「(思い出深い対局は)やっぱり中原さんに勝った一局ですね。終盤、ギリギリのところに踏み込んでいった。よくやったかなと思います」

 宮田はこの頃好調で、王座戦の挑戦者決定戦にも進んだ。そこで待っていたのは中原だった。熱戦の末、今度は宮田が負けた。

「勝ちたかったんだけどやっぱり、ちょっと足りなかったですね。いま思うと残念というよりは、よくぞここまでやったな、ぐらいかな」

 宮田は現役中、ついにタイトル挑戦にまでは至らなかった。しかしその夢は、優秀な弟子たちが成し遂げている。2019年度、本田奎(現六段)は渡辺明棋王に挑戦した。宮田は自宅にしまっていた和服を2着、愛弟子に贈った。

「私自身は、和服で正座はあまり好きじゃないんですよ(笑)。もちろん大切な日本の文化ですし、口ははさみませんが、長い時間正座するのは、身体がわるくなる元なんじゃないかと思ってます。世界中に広めようと思うんだったら、椅子の方がいいんじゃないかな。そのうちそうなるとは思いますけどね」

 現在は伊藤匠七段が藤井聡太竜王に挑戦中だ。第1局は10月6・7日、都内の渋谷でおこなわれた。宮田は目立たぬよう、少しの間だけ、現地解説会場の後ろで見ていた。

「伊藤は伊藤で考えてたと思うんですけど、たぶんその思考を察知されていた。最後まで受け一方になっちゃって、ちょっと残念だったかな。『やっぱり藤井、強いわ』と思いました(笑)」

(構成/ライター・松本博文)

AERA 2023年10月23日号

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