また、ハルメクは物販の他にコミュニティ部門というのがあり、旅行なども企画販売している。そこで伊豆の河津桜を見る旅というのがあったので、参加をしてみた。特別列車に乗って河津桜を見ながらお弁当を食べる。
このときシニアの女性の間で話題になっていたのは羽生結弦の試合の結果だった。「どうなったのかな」。スマホを持っているのに、それをなんで調べないのか不思議だったが、ちょっと話をしてみて理解した。そもそもスマホの使い方がよくわかっていないのだった。
「スマホの使い方」はハルメクの定番のヒット企画となって定着する。
こうして「シニア女性の悩みを聞いてそれを解決する」というコンセプトのもとに誌面の企画をやっているうちに、年間5万部を上回るペースで部数も上昇していった。それにつれて編集部の空気も山岡を信頼するものに変わっていく。
山岡は新聞社で行われているような有識者会議なるものをすぐにやめた。「座談会」には編集部員が競ってでるようになる。
社長の宮澤は山岡にこんなことを聞くようになっていた。
「君は生涯一編集者になるつもりなのか。それともこのあと経営のほうに興味があるのか?」
そして2020年のある日、山岡は7階にある社長室に呼ばれ仰天するような提案を宮澤から受けるのだ。
J-STARは、2012年に会社をノーリツ鋼機に売っていた。ノーリツ鋼機はもともとはフィルム写真の周辺機器をつくっていた会社だが、フィルム市場の縮小とともに新規事業を探して「ハルメク」の前身の会社を買ったのだが、事業の重点を移すため、「ハルメク」を売りたいのだという。
「次にどんなオーナーがくるかわからない。私たちで会社を買おうと思う。マネージメント・バイアウトだ」
宮澤によれば、2009年にこの会社に移ってきてから二人三脚でやってきた元SMBC日興証券の土屋淳一と数人のエンジェル投資家で、会社を買うというのだ。その後、上場して資金を回収し、投資を拡大することをもくろんでいるという。