主婦と生活社からハルメクに移籍した山岡朝子は、編集者とは「創ると売るの両輪を回すこと」だと考えていた。主婦と生活社時代には、日本国内のビジネス・スクールに通いMBAを取得したりもしている。
その山岡は移籍したハルメクで前編集長の最後の号の雑誌づくりを注意深く見ることになった。
これは、面接のために過去のバックナンバーをみていて感じたことでもあったが、「病気」の企画が多いのが気になった。他にも介護や年金など、確かに高齢者の雑誌だが、60代、70代といえども今はみな若い。ヘアやファッション、料理や恋愛などにむしろ興味があるのではないか?
編集長が「高齢者は情報弱者ではない。うちは問題提起をして読者に考えさせる」と言っているのにも違和感を感じた。実際に企画会議でも、こういう運動があり社会的意義があるのでぜひとりあげたい、といった企画が次々に出されていた。
会社では以前から一般のシニア女性を毎回違う顔ぶれで呼んで、新聞広告の案についての感想を聞くという「座談会」というのが行われていた。
しかし、ここに編集部門からは誰も出席していないのだった。出席しているのは主催しているマーケティング部の人間だけ。
山岡は、編集部員に「行ってみない?」と誘ってみたが、「ああいうのは、行っても意味がない」と冷淡だった。そのかわり編集部では、有識者に雑誌を読ませて感想を聞く“有識者会議”なるものを開いているのだということだった。前編集長は、マーケティング部の介入をいやがっていた。
山岡は「座談会」の方に編集部門からは一人出てみて、これは企画の宝庫だと感じた。参加しているのは、ハルメクをまだ講読していない潜在読者の50歳以上の女性だ。
毎回違うメンバーがアウトソースしている会社から選ばれてくる。定期購読誌というのは書店売りをしていない。つまり実物を読者がみて買うというものではない。新聞広告がすべてだ。その新聞広告をA案、B案と見せていくのだが、当然その中でどういう企画なのかということを説明する。そうすると、さまざまな反応がある。そこをつかまえて企画のヒントにできる。