一緒に暮らしていた女があろうことか自分の友人と心中してしまった。一人きりになった男は、雨の中、「忌中」の紙が貼られている女の実家に香典を持っていくが、にべもなく断られる。線香もあげさせてもらえない。
ピンク映画は斜陽の一途。男(綾野剛)は映画監督だが、もう5年もメガホンを取っていない。彼には金がない。彼女は友人と心中してしまった上に仕事もない。しかし、生きていかねばならない。仕方なく家賃の相談に行くと、新しいマンションを建てたいのに立ち退きに応じない男がいる、そいつをどうにかしてくれたら考えてやってもいいと大家が言った。「家賃分に色をつけた経費をやるよ」
季節は梅雨。家主の代理で訪ねたのは築60年の木造2階建てのあまや荘。廃屋になりかけたアパートに居座っているのが、かつてシナリオを書いていたという男(柄本佑)だった。
何となく気が合った。2人は同じアダルトビデオ制作会社に関わった縁があったのだ。
レコードと本。灰皿に缶ビール。時間は有り余っている。彼らはかつての恋人との日々を語り始める。それぞれ誰かに話したくて仕方がなかった。立ち退きの話など、どうでもよくなった。それほど「いい女」だった。
青春の息吹が雨に濡れていた。薄い色の金魚と、洪水のように雨が降りしきる新宿ゴールデン街で拾ったザリガニ。雨は物語の濃密さを倍増させる。
彼らがそれぞれ激烈に愛していたのは同じ女だった。観客はその事実を途中から知る仕掛けになっているが、そこにもどかしさは感じなかった。それどころか、残された男たちにはもうこれ以上傷つかないでほしい、同じ女を愛していたと知らずにそのまま生きてもらいたいとさえ僕は思った。
女の名前は「祥子」といった。自主映画や街の小さな舞台で、瞳を輝かせ、女優として生きていた。実家の両親は彼女が女優をしているとは知らなかった。一人で東京に出てきて、演劇の道を進んでいた。