現実の重みに祥子は耐えきれず、壊れかかる。「祥子、頑張れ」と僕は呟いたが無駄だった。この世にいなくなってしまった彼女がこの映画の主役だと思えるくらい、さとうほなみが出色だった。
さとうの演じる祥子の屈託のなさ、笑顔、不安げな声、酒場での男前な飲みっぷりが泣けた。
監督は荒井晴彦。原作は松浦寿輝の芥川賞受賞作『花腐し』。松浦は「荒井さんが私の作品をモチーフにして、映画作家として“超訳”してみせた。それは、超絶的な美技だと感じました」と語った。「(荒井さんは)自分の感受性や自分の世界を頑なに貫こうとしていて、そこには一種の“破滅”への嗜好みたいな悲劇性も貫かれている。今回は、極端なところまで行ったのではないかという気がしました」
試写後、後ろの席に阪本順治がいた。久しぶりと挨拶を交わしながら、阪本、荒井、そして僕の3人で、原田芳雄の遺作となった『大鹿村騒動記』を手掛けたことを思い出した。