過払い金マフィア、マルチの親玉、カルトの宗務総長――社会に巣食う悪党が次々と殺害される。黒川博行さんの最新長編『悪逆』は、警察の動きを攪乱しながら凶行を続ける殺人犯と、事件を追う大阪府警捜査一課の刑事と所轄のベテラン部屋長の2視点で展開する、王道のクライム・サスペンスだ。黒川さんと30年の付き合いになる週刊朝日元編集長が、その人柄と黒川作品に宿る先見性についてつづる。
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直木賞作家の黒川博行さんの最新刊『悪逆』(朝日新聞出版)は、今年5月末に休刊した週刊朝日の最後の大型連載小説だ。証拠を残さず、完全犯罪を繰り返すサイコパスを追うなにわのデカ(刑事)たちの悪戦苦闘が黒川節炸裂で描かれるハードボイルドだが、単行本の表紙は不揃いの3つの栗がちょこんと並び、どこかコケティッシュでかわいい。黒川作品ではおなじみの奥様、雅子さんの作品だ。
「栗の絵は俺が頼みました。ピンクの帯もかわいいやろう」と黒川さん。
黒川さんは大学で彫刻、雅子さんは日本画を学んだ後、共に高校で美術の教師をした経歴の持ち主だけにこだわりがある。
小説が連載されたのは2021年11月~23年2月までだが、連載がはじまる3年前から実は小説のプロット(あらすじ)は知っていた。というのは、黒川さんに小説連載を依頼した張本人だからだ。小説のプロットの打ち合わせを一緒にした書籍担当編集者のI氏とともに私の名前も作中に登場するが、ご本人いわく「シャレ」だそう。