『悪逆』と同じ構図の事件が起こるかもしれない⁉
黒川夫妻との出会いはかれこれ30年ぐらい前で、まだ20代前半の新人時代だった。当時、日刊現代(大阪編集部)で記者をしていた私は黒川さんのコラムの担当になったのだ。コラムにはほとんど、「嫁はん」こと雅子さんが登場し、夫妻の何げない会話、麻雀などの風景がテンポのいい大阪弁で描かれる。
大学時代に雀荘で出会って以降、三度の飯より麻雀好きな黒川夫妻の一風も二風も変わった暮らしをのぞき見るようで、いつもクスクス笑いながら読んでいた。
大阪府内にある黒川邸に担当記者らが集まる忘年会に行ったとき、雅子さんとはじめてお会いしたが、麻雀ができない私も楽しめるようにと「ちんちろりん」を教えてくれた。
その後、私は週刊文春記者を経て朝日新聞、週刊朝日で事件記者をしたが、その時も黒川さんには何かにつけてお世話になった。というのも、黒川さんの小説はいつも時代を先取りしていたからだ。
デビュー作『二度のお別れ』(1984年)は、作中で描かれた犯人のトリックと「グリコ・森永事件」の犯人グループの犯行手口の一部が酷似していると発売前から話題となり、重版を重ねた。
黒川さんの代表作の一つ『後妻業』(2014年)が発売された後、関西では実際に高齢男性の後妻となり、財産を手に入れるために次々と男性を殺害した筧千佐子死刑囚が逮捕、起訴された。この事件は黒川さんの小説から「後妻業事件」と呼ばれ、ベストセラーとなった。
今回の『悪逆』も発売後、同じような構図の事件が必ず、起こると私は予感している。
黒川さんご本人は携帯電話も持っていない昭和な人なのだが、小説にはIPアドレス、Nシステムなど警察のハイテク捜査の内幕も描かれ、その「蟻の一穴」で犯人は追い詰められる。
実は週刊朝日で描かれた最終回の結末と単行本の結末は大きく違っていた。
その理由を尋ねると、「まあ、何となくや」と煙にまかれた。
読後感もかなり違っている。週刊朝日で読んだよという方もぜひ、ご一読ください。
(週刊朝日元編集長 森下香枝)