大腸がんは、再発率が低く、手術で完全に切除できれば、治りやすいがんといえます。手術の方法は、ロボット手術を含めた腹腔鏡手術が主流になっています。おなかに開けた小さな穴から器具を挿入して操作し、がんがある腸管やリンパ節を切除します。腹腔鏡手術は傷が小さく、回復が早いのがメリットですが、上野医師は「直腸がんでぎりぎり肛門を残す術式『ISR(括約筋間直腸切除術)』を実施する場合、腹腔鏡手術のメリットを生かせる」と言います。

「ISRは、排便をコントロールする肛門括約筋を傷つけずに、ぎりぎりのところで残す難度の高い手術です。神経や組織を確認しながら丁寧に操作していくことが必要なので、腹腔鏡手術での拡大視が特に有効です。また、ロボット手術では、さまざまな角度からメスを動かせるので、腹腔鏡の達人でなくても、それが可能と期待されています」

 ロボット手術は2018年に直腸がん、2022年には結腸がんでも健康保険が適用されるようになりました。

 現在、直腸がんに関しては手術をせずに肛門を残す「watch&wait」という治療が、世界的に注目されています。ステージⅡ~Ⅲの肛門に近い直腸がんの場合に術前に薬物治療と放射線治療をすると、3~4割の人はがんが消失することがわかってきました。この場合、手術をせずに経過をみます。

「がんが再び出てきたら、その段階で手術をします。海外のデータでは手術が必要になるのは、4人に1人くらいです。その多くは治療後2年以内にがんが出てきています。現在日本は虎の門病院などの先進的な病院で臨床試験として安全性や有効性を確認していますが、今後広く普及していくことは間違いないと思います」(上野医師)

 大腸がんは、手術ができない進行がんに対しての薬物治療の進歩も著しく、使用できる薬の種類が大幅に増えています。上野医師によると「薬物治療がうまくいき、手術ができるようになる患者さんも増えている」とのこと。最近では遺伝子検査によって遺伝子変異を多く持つ「MSI-high」タイプであることが判明した人は、免疫チェックポイント阻害薬だけでがんが消失することも明らかになりました。今後も特異的な遺伝子変異を対象とした新しい薬が登場する見込みで、ますます治る大腸がんが増えていくことが期待できます。

(文/中寺暁子)

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