コスパ(高見えするファッション)やタイパ(サビで始まる音楽配信)に加え、ウェルパ(エシカル商品)も現代人は意識する(illustlaion/松山朋未)
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 消費行動がコスパやタイパ志向にシフトするなか、識者は次のトレンドとして「ウェルパ」に注目する。どんな価値概念なのか。AERA 2023年10月9日号より。

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 価格に見合った便益が得られるかどうかの判断基準がコストパフォーマンス(コスパ)。時間資源を投下する対価として結果的に満足する行動になっているかどうかがタイムパフォーマンス(タイパ)。「この二つの評価軸は、いまどきの消費者心理を理解する上で非常に重要な視点」と話すのは、電通未来事業創研の立木学之さんだ。

「安価だけど“高見え”するファッションコーディネートはコスパ、いきなりサビから始まる楽曲はタイパの好例です」

 このトレンドは健康にまつわるサービスにも当てはまる。

 健康な体を手に入れるためには、お金も時間もかけてスポーツジムに通うのがこれまでの常識だった。これに対し、スキマ時間に安価で通えるのがコンビニジムのビジネスモデルだ。「これは従来と逆の発想」(立木さん)。にもかかわらず、ヒットしているのはコスパやタイパを求めるトレンドにマッチしたからといえる。だがそれだけではない、と立木さんは言う。

「コスパやタイパの価値は残り続けると思いますが、2030年代に向けて注目している新たな価値概念が『ウェルパ』です」

投資先は富から時間へ

 ウェルパとは「ウェルビーイング・パフォーマンス」の略。立木さんの造語だ。ウェルビーイングとは「心身が満たされ、生き生きと健康で過ごせる状態」を指す。自分の行動や購入する商品・サービスが、自分自身や社会のためになっているか。つまり、ウェルビーイングな状態になれるかどうかが消費者の意識や行動の重要な評価軸になる、と立木さんは予測する。

「ウェルパが今後、社会の主流になっていくかは未知数ですが、それを先取りする要素がコンビニジムなどのヒットに見いだせると考えています」

 ウェルパと密接不可分の関係にあるのが健康だ。日常生活で少し体を鍛える習慣を身に付けることで気分がリフレッシュできてハッピーになれる。そんなチョコザップの体験ルポを通じて筆者が得たのは、まさにウェルパだったのかもしれない。「心身の健康はウェルパにつながるベース」(立木さん)と捉えれば、管理栄養士の浅野まみこさんが提唱する栄養面に着眼した「健康コスパ」も、ウェルパに接続する「真の価値」を見極めるニーズの先取りともいえる。ほかにも例えば、睡眠の質の改善をうたう「ヤクルト1000」のヒットは、就寝時間すら効率や充実を求めるタイパに加え、ウェルパの要素に符合している面も見逃せない。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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