膵がんの治療では、まず画像から「手術可能」「手術可能境界」「手術不能」に分類し、手術ができるかどうかを検討します。がんの大きさのほか、主要な血管を巻き込んでいないか、肝臓などに転移がないかどうかといったことが判断の基準となります。手術可能境界とは、手術が可能か、不可能かのボーダーラインのことで、手術をしたとしても、わずかにがんを取り残す可能性が高い状態です。
膵がんの代表的な手術である「膵頭十二指腸切除」は、膵頭部のほか、十二指腸、胆管、胆のうとともに周囲のリンパ節や神経を切除したのち、膵臓や胆管を再建する大がかりで難度が高い手術となります。一方「膵体尾部切除」は、からだの左側にある膵尾部や膵体部、脾臓を切除する方法で、再建の必要がないので膵頭十二指腸切除に比べると難度が低く、近年は腹部に小さな穴を開けて手術する腹腔鏡手術やロボット手術も導入されています。
膵がんは手術ができても、術後に再発するケースが少なくありません。しかし、薬物療法の進歩によって、手術後の5年生存率が大きく伸びています。
「約10年前から『S-1』という抗がん剤を術後に半年間使用することがスタンダードになり、術後の5年生存率が20%程度だったところから、40%以上にまで伸びました。2019年には術前にも抗がん剤治療をすることで、さらに生存率が上がることがわかり、術前の抗がん剤治療も広く実施されるようになってきました」(上坂医師)
また、切除可能境界の場合でも、術前に抗がん剤単独、もしくは放射線治療を加えることでがんを取り残さずに切除できる確率が高くなり、その場合は最初から切除可能と診断されて手術をしたケースと同程度の5年生存率になることがわかってきています。さらに手術不可能と診断されても、抗がん剤治療によって手術ができるようになる例も少しずつ増えています。
「治療が進歩し、選択肢が増えたことで、膵がんになっても治る患者さん、長生きできる患者さんが着実に増えています。膵がんと診断されても諦めずに自分のがんの状況、治療方針を医師からよく聞いて、しっかり治療を受けてほしいと思います」(上坂医師)
(文/中寺暁子)
【取材した医師】
県立静岡がんセンター総長 上坂克彦医師