古賀茂明氏
この記事の写真をすべて見る

「海外からの参入を促進するため、資産運用特区を創設し、英語のみで行政対応が完結するよう規制改革し(中略)日本に投資いただくことを強く求めたい」

【写真】庶民の生活を困窮化させる政策に舵を切った?と言われるのはこの人

 9月21日、岸田文雄首相が米国ニューヨークで行ったスピーチの一節だ。

 海外から日本への投資を拡大しようというのは結構なことだと思う人が多いだろう。しかし、これが日本経済を助けるどころか、持続可能性に疑問符がつく日本経済の破綻に向けた第一歩になってしまうのではないかと私は懸念している。

 話は少し前に遡るが、2021年の自民党総裁選を思い出してほしい。

 岸田氏は、分配政策の柱の一つとして、金融所得課税強化を打ち出した。その根底にあるのが「新しい資本主義」という考え方だ。「市場や競争に任せれば、全てがうまくいく」という新自由主義的な考えの弊害を指摘し、「格差と貧困の拡大」を問題視する姿勢は、これまでのアベノミクスとは一線を画すものだった。

 とりわけ、金融所得課税の強化は、象徴的なテーマだ。

 所得税は給与などの所得が多いほど税率が上がる累進制で最高45%が適用される。しかし、株式の売却益などの金融所得は給与と分離して一律15%の税率を適用する分離課税を選択できる。金融所得が多い富裕層は総合課税であれば高い税率が課されるのに、分離課税によって所得全体からみた税負担率が下がってしまう。その結果、所得1億円を境に所得税の税率が実質的に低下していく逆転現象が起きる。これが「1億円の壁」である。富裕層を不当に優遇する不公平税制だから、これを是正するのは当然だ。

 では、その後、これがどうなったのか。

次のページ
「ほとんど意味のない改革で終わった」